10月4日 世界動物の日『猫さらいの正体』(文字数:1338字)
いつものように縁側で毛づくろいをしていると、向かいの家から慌ただしい声が聞こえてきた。
「また猫が消えたって? これで十匹目よ!」
最近、この辺りで猫の失踪が相次いでいるのだ。警察は「野良猫が他の場所に移動しただけ」と言うが、飼い猫まで消えているのはおかしかった。
そのとき、隣の茶トラ猫のオズが慌てて飛び込んできた。
「ルナ! 大変だ!」
「どうしたの、そんなに息を切らして」
「猫さらいの正体を見たんだ! 信じられないぞ」
「誰? 野犬? それとも変な人間?」
「違う……猫なんだ! 真っ黒な猫が、消えた猫たちを連れて歩いてるのを見たんだ。でも様子がおかしくて……」
オズは震え声で続けた。
「その猫たち、目が虚ろで、まるで操り人形みたいに歩いてた」
「どこで見たの?」
「神社の裏手。でも近づいちゃダメだ。あの黒猫、普通じゃない」
普通じゃない猫……まさか私と同じような?
夜になって、私は一匹で神社に向かった。月明かりに照らされた境内は不気味に静まり返っていた。
裏手に回ると、確かにいた。漆黒の毛艶を持つ美しい猫が、十数匹の猫を従えて何やら儀式めいたことをしていた。
「おや、新しい参加者かしら?」
黒猫が振り返ると、金色の瞳が月光に光った。
「あなたも猫になりたくてきたのでしょう?」
「猫になる?」
「そう。人間だったときの記憶を捨てて、純粋な猫として生きる。素晴らしいことじゃない」
操られた猫たちの中に、近所の飼い猫の姿を見つけた。確かに目が虚ろで、まるで魂を抜かれたみたいだった。
「あなた、何者?」
黒猫は優雅に尻尾を揺らした。
「私? 猫たちの願いを叶える存在。あなたのような『中途半端』な存在を、真の猫にしてあげるの」
「中途半端って?」
「人間の記憶を持ったまま猫でいるなんて、不自然でしょう? 私がその重荷を取り除いてあげる」
黒猫の瞳が怪しく光った瞬間、意識が朦朧とし、記憶が薄れていった。
「ちょっと待って」
私は必死に頭を振った。
「あなた、もしかして元人間なの?」
黒猫の表情が変わった。
「それに猫の願いを叶えるって言うけど、あなたがやってるのは記憶を消しているだけだわ。これって猫のため? それとも……」
黒猫が吹き飛ばされたように後ずさりした。
「人間だったときの記憶から逃げるため?」
瞬間、黒猫の姿がゆらめき、そこに現れたのは……
「やめて!」
そこには涙を流す少女の姿があった。
「私はもう人間には戻れない! だけど猫でもない!」
「一人じゃ寂しいから、仲間を作ろうとしてたのね」
少女は泣きながら頷いた。すると操られていた猫たちの目に光が戻っていった。
「大丈夫。人間の記憶があっても、猫として生きていけるわ。私がそうしてるように」
「辛くないの?」
「ときどきね。でも、その分楽しいこともある。両方の世界を知ってるって、悪くないのよ」
少女の姿が再び黒猫に戻り、穏やかな表情に変わった。
「ありがとう……」
翌朝、消えていた猫たちは全員、元の家に戻っていた。
黒猫は「ノア」という名で、私の隣の空き家に住むことになった。
「今日からよろしくね」
「ねえ、ルナ? 私たちって結局、猫なの? 人間なの?」
「どちらでもあって、どちらでもないのよ。でも、それでいいじゃない」
ノアは小さく笑い、今日もまた、私たちは猫として、そして元人間として生きていく。
10月4日「世界動物の日」
動物の権利と福祉の向上を目指す国際的な記念日です。1925年にドイツの動物愛護活動家ハインリッヒ・ツィンマーマンが、動物の守護聖人であるアッシジの聖フランシスコの祝日(10月4日)にちなんで提唱したものです。1931年の国際会議で正式に制定され、世界中の人々が動物愛護・保護を考える日となっています。
