物語を売る。チャンピオンマンゴーが伊勢丹に愛される理由
笹子と伊勢丹。この両者の関係は、単なる「取引先」という言葉では片付けられないほどに深い。
片方は、本物を見抜き、その裏に隠された物語をすくい上げる
「目利き」のプロ。
もう片方は、台湾の地でただひたすらに、至高のマンゴーを追い求める
「作り手」の徒。
この二つの魂が出会い、激しい火花を散らしながら、ようやく棚に商品が並ぶ。そこに至るまでには、数え切れないほどの商談と、夜を徹しての打ち合わせがあった。積み重ねた時間は、そのまま互いへの「信頼」へと形を変え、チャンピオンマンゴーをさらなる高みへと進化させていく。
チャンピオンマンゴーが日本という市場でここまで育つことができたのは、間違いなく伊勢丹があったからだ。
2026年、私たちはさらなる高みを目指した。前年度の反省を糧に、「もっとお客様に喜んでいただくためには何が必要か」を、何度も、何度も議論した。
導き出した答えの一つ。それは、伊勢丹百貨店およびクイーンズ伊勢丹全店舗のチーフが集まる「全国会議」への参加だった。
どれほどバイヤーが商品の良さを理解していても、最前線の現場にその熱量が届かなければ、お客様の心には響かない。
「一人でも多くのスタッフに、直接このマンゴーを知ってもらいたい。そうすれば、自ずとお客様にも伝わるはずだ」
お客様を第一に考える伊勢丹の姿勢に、私は改めて身が引き締まる思いだった。
全国チーフ会議。
そこで笹子がチャンピオンマンゴーをプレゼンすることが決まった。
「どうすれば、一瞬で、直感的にこのマンゴーの凄さを伝えられるか」
笹子は考え抜いた。
普段使っている詳細な提案書では、店頭の忙しいお客様には届かない。時間は限られている。私は二日間、一点突破の情熱を込めたパワーポイントを作成した。
「目の前にいる30名のチーフを、一人一人のお客様だと思って向き合おう」
笹子はそう心に決めた。
完成した資料を何度も見返し、与えられた「15分」という時間にどう爪痕を残すか。毎日そればかりを考えた。
聞けば、半日がかりの重苦しい会議のなかで、私の出番は「中休み」のような時間帯だという。
「よし、笑いと参加型クイズを取り入れよう。記憶に焼き付く15分にするんだ」
笹子の戦略は決まった。
会議当日。万全を期して1時間前には会場に到着した。
青果部長と談笑しながら出番を待つ。人前に立つことには慣れているはずだった。
しかし、待ち時間が長くなるにつれ、不意に緊張が全身を走った。

「みんな、聞いてくれるだろうか。笑ってくれるだろうか。興味を持ってくれるだろうか」
いらぬ心配が頭をよぎる。
そして、重厚な扉が開かれ、中に呼ばれた。
コの字型の会議室。全国から集まった精鋭チーフ30名が私を囲んでいる。
誰一人、笑っていない。会議の熱気と真剣な眼差しが突き刺さる。
当然だ、これは真剣勝負の場なのだ。

紹介を受け、笹子は前に出た。
「純粋な心は、必ず人の心を動かす」
自分に言い聞かせ、腹の底から声を絞り出した。汗が滴り落ちるのも構わず、ただ思いをぶつけた。
途中で放った「渾身のネタ」は見事に滑った。一瞬、空気が凍りつく。
だが、クイズタイムで巻き返した。さっき説明したばかりの内容を、あえてクイズにする。
「一度聞いたことをアウトプットしてもらう。そうすれば、忘れられない記憶になる」
それが笹子の戦略だった。
正解者へのプレゼントは、チャンピオンマンゴーを惜しみなく使った無添加ドライマンゴー。
「プレゼントがあります!」
その一言で、会場の空気が一変した。皆の目が輝き、次々と手が挙がる。
最高潮の盛り上がりの中で15分が終了したとき、会場を包んだのは、ありきたりな礼儀としての拍手ではなかった。
皆の口角が上がり、白い歯が見える。心からの、温かい拍手だった。
正直、その15分間の記憶はほとんどない。

がむしゃらに、泥臭く、一生懸命に説明したことだけは確かだ。
会議室を出たあと、私のスーツは、まるで雨に打たれたかのようにびっしょりと濡れていた。
後日、店頭でチャンピオンマンゴーを見た時、ふと思い出してくれればそれでいい。
「あの時、変な日本人が一生懸命に説明していた、あのマンゴーだ」と。
そして、その情熱を一言、お客様に添えてくれるだけでいい。
思いは、必ず人の心を動かす。
笹子の挑戦は、これからも続く。
