【第2部】消費税減税で飲食店は潰れるのか
――事業者側の税務から考えてみる
第1部では、食料品の消費税をゼロにした場合、
「年間約5兆円規模の減税になる」という数字が、
決して誇張ではないことを確認した。
では次に、必ずと言っていいほど出てくるこの主張を検証したい。
「消費税を減税すると、飲食店が潰れる」
一見、もっともらしく聞こえる言葉だ。
しかし本当に、そう言い切れるのだろうか。
ここでは感情論を避け、
飲食店が実際に直面している税務処理の仕組みから考えてみる。
(※内容が不明瞭な場合や実務判断が必要な場合は、必ず税理士などの専門家にご相談ください。)
消費税は「事業者の負担」なのか
まず前提を整理する。
消費税は、その名の通り消費者が負担する税である。
事業者は、消費者から受け取った消費税を国に納付する立場にある。
会計実務の感覚としては、
消費税は「預り金に近い性格」を持つ税だと言える
(もちろん税務上はもう少し複雑だが、考え方として重要だ)。
したがって、
消費税率が下がる
あるいはゼロになる
ということ自体が、
直ちに事業者の利益を削ることを意味するわけではない。
それでも「飲食店が苦しくなる」と言われるのは、なぜか。
本則課税と簡易課税
まず事業者が消費税を納める方法を整理する
消費税には、大きく分けて次の二つの計算方法がある。
本則課税
売上にかかる消費税 − 仕入・経費にかかる消費税簡易課税
売上にかかる消費税 × みなし仕入率
飲食業の場合、みなし仕入率は60%とされている。
簡易課税の特徴は、
実際の仕入や経費の内訳に関係なく、
制度上あらかじめ定められた割合で計算される点にある。
食料品の消費税がゼロになると何が起きるか
仮に、食料品にかかる消費税がゼロになった場合を考える。
本則課税の飲食店
食材仕入にかかる消費税:ゼロ
一方で、
店舗家賃
水光熱費
備品・消耗品
といった課税経費は引き続き存在する。
この結果、
仕入税額控除が減り
納付額が増える
というケースは確かに起こり得る。
ただしこれは、
消費税が「コスト」ではなく「預り金的な性格」を持つ税であることを理解し、
受け取った消費税を事業資金と分けて管理していれば、
資金繰り上の問題としては整理可能な話でもある。
簡易課税の飲食店では何が起きるか
簡易課税では、
納付税額 = 売上税額 −(売上税額 × 60%)
となる。
ここで重要なのは、
実際の仕入や経費の内容は計算に一切反映されない点だ。
食料品の消費税がゼロになれば、
実際の仕入税額は減る
しかし、みなし仕入率60%は変わらない
結果として、
制度上の控除額が実態を上回り、
いわゆる「益税」が生じる、あるいは拡大するケースが出てくる。
これまで本則課税の方が有利だった飲食店であっても、
食材にかかる消費税がゼロになれば、
簡易課税に切り替えた方が有利になる可能性は高い。
このような制度変更が起きた場合、
税理士と相談し、自社に合った課税方式を再検討することが重要になる。
「飲食店が潰れる」どころか
ここまで整理すると、別の姿が見えてくる。
簡易課税が適用できる飲食店
これまで簡易課税が不利だった店舗
こうしたケースでも、
食料品の消費税ゼロ化によって有利に転じる可能性がある。
つまり、
「減税で飲食店が潰れる」
というよりも、
「減税で楽になる飲食店が一定数出る」
と見る方が、実態に近い。
原価に含まれる消費税負担が消えることで、
日々のキャッシュアウトが減り、
資金繰りが改善する可能性もある。
その余力はどこへ向かうのか
消費税負担が相対的に軽くなった場合、
飲食店にはいくつかの選択肢が生まれる。
価格を据え置く
原材料高を吸収する
賃上げに回す
益税が発生すれば法人税の課税ベースは増えるが、
それは「利益が出た結果として課税される」という、
健全な構図でもある。
不満が生まれるとすれば
もちろん、課題がないわけではない。
コロナ禍での手厚い支援
簡易課税や免税事業者の有利さ
こうした点が可視化されれば、
「飲食店だけずるい」
という感情が生まれる可能性はある。
ただしそれは、
雇用者が多く、価格転嫁が難しい業種を
社会としてどう評価するか、という別の論点でもある。
第2部の結論
第2部で確認できたことは次の通りだ。
消費税は本来、事業者の利益を直接削る税ではない
「飲食店が潰れる」という主張は、制度理解の不足から生じやすい
簡易課税では、むしろ有利になるケースが存在する
その結果、価格維持や賃上げに回る余地が生まれる
少なくとも、
「減税=飲食店壊滅」
と単純化できる話ではない。
第3部(予告)
5兆円の財源と、その副作用について。
※内容は、執筆の過程で調整する可能性があります。
