変わる時代、変わらない看護① 「あなたでも言えないの?」
はじめに
看護の現場は、この十数年で大きく変わりました。
働き方、教育、価値観、そして管理のあり方。
その変化は決して悪いことばかりではありません。
むしろ、これまで見過ごされてきた課題が改善され、働きやすくなった面もたくさんあります。
一方で、その変化の中で、私たちは何を得て、何を失いつつあるのでしょうか。
教育担当として研修に携わる中で、そして元看護部長として現場を見つめる中で、そんなことを考える場面が増えました。
このシリーズでは、研修で出会った言葉や現場で感じた出来事をきっかけに、「今、看護現場で起きていること」を私なりの視点で綴っていきたいと思います。
誰かを批判したいわけではありません。
「昔はよかった」と言いたいわけでもありません。
変わる時代の中で、変えてはいけないものは何なのか。
そんなことを皆さんと一緒に考えるきっかけになれば嬉しく思います。
「あなたでも言えないの?」
先日、習熟段階レベルⅢを対象としたリーダーシップ・マネジメント研修を担当した。
参加者は、現場の中核を担うベテラン看護師たち。
高い実践力を持ち、後輩からも管理者からも、良くも悪くも一目置かれている人たちである。
研修前に提出された事前課題を読んでいて、私はあることに気づいた。
現場の課題は、皆よく見えている。
「もっと患者さんに関心を寄せてほしい。」
「なぜそこを考えないのだろう。」
「もっとこうすれば良い看護になるのに。」
そんな思いが、行間から伝わってきた。
でも、そのレポートを読み進めながら、私は何度も同じことを考えていた。
「それで、あなたは何か行動したの?」
課題は書かれている。
でも、自分がどう働きかけたのか、その記述はほとんど見当たらなかった。
もちろん、レポートに書いていないだけかもしれない。
それでも研修が始まり、参加者の話を聞いているうちに、その理由が少しずつ見えてきた。
「なかなか言えないんですよ」
そんな言葉が、あちらこちらから聞こえてきた。
私は正直、驚いた。
なぜなら、今回集まったのは、以前であれば
「もう少し伝え方を工夫してください」
と私がお願いする側だった人たちだからだ。
看護観がしっかりと確立され、妥協を許さず、後輩にも高いレベルを求める。
時には厳しすぎる指導になり、「その言い方では新人がつぶれてしまいますよ」と伝えたことも一度や二度ではない。
実際、その厳しさに耐えられず辞めていった新人や若手がいなかったわけではない。
だから
「あなたでも言えないの?」
そんな言葉がとっさに浮かんだ。
もちろん、昔の指導がすべて正しかったとは思わない。
それでも、その人たちが今、口をそろえて「何も言えない」と話していることに、時代の大きな変化を感じた。
ハラスメントという言葉が社会に浸透し、「これを言ったらハラスメントと思われるのではないか」という不安が、現場には確かに存在している。
本来であれば、相手の成長を願って伝えるべきことまで飲み込み、何度も言葉を選び、結局は何も言わない。
そんな場面が増えているように感じる。
もちろん、厳しい言い方や人格を否定するような指導は許されるものではない。
しかし、本当に私たちが選ぶべきなのは、
「言う」か「言わない」かの二択なのだろうか。
必要なのは、伝えることをやめることではなく、伝え方を磨くことではないだろうか。
今回の研修では、現場の課題を語るだけでは終わらせず、「では、自分は何をするのか」を一人ひとりが行動レベルまで落とし込んだ。
その姿を見て、少し安心した。
現場は、まだ変えられる。
大きな改革ではなくてもいい。
一人で抱え込まず、仲間と共有し、小さな一歩を踏み出す。
そんな積み重ねが、これからの看護現場を支えていくのだと思う。
そして私は、今回の研修を通して改めて感じた。
時代は変わる。
働き方も変わる。
教育も変わる。
でも、「患者さんにより良い看護を届けたい」という思いだけは、変えてはいけない。
その思いを次の世代へどう伝えていくのか。
それが、今の私たちに問われているのだと思う。
