市場調査が半日から30分に──生成AIでTAM/SAMを出す
新規事業の企画会議で「この市場、規模はどのくらい?」と聞かれた。半日かけて統計を探し回り、「だいたい3,000億円くらいです」と答えた。すかさず「その数字の根拠は?」と返されて、言葉に詰まった。出典も計算過程もなく、ただ検索で見つけた数字を貼り付けただけだった。
市場規模の推定は、数字の大きさではなく「前提条件と計算過程が説明できるか」が勝負だ。生成AIを使えば、TAM/SAM/SOMの初期推定を根拠付きで30分で作成できる。
TAM/SAM/SOMとは
市場規模を3段階で分析するフレームワークだ。
TAM(Total Addressable Market)
理論上の最大市場規模。対象市場が100%自社製品で埋まった場合の売上額。
SAM(Serviceable Addressable Market)
TAMのうち、地理的制限や顧客セグメントを考慮した提供可能市場。
SOM(Serviceable Obtainable Market)
SAMのうち、競合環境や自社の実行能力を踏まえた現実的な獲得可能市場。
投資家への説明や新規事業の意思決定では、この3層構造で市場規模を示すことが求められる。
TAM→SAM→SOMの絞り込みを**「3層フィルター」**と呼んでいる。第1フィルター(地理・セグメント)でTAMをSAMに、第2フィルター(競合・実行力)でSAMをSOMに絞る。このフィルターの前提条件を明示できるかどうかが、「ざっくり3,000億」と「根拠付き推定」の分かれ目だ。
手順1:調査条件を整理する(5分)
AIに渡す前に、以下の4点を明確にする。
市場定義: 業種・分野・対象製品
地域: 国内か海外か、あるいは特定地域か
対象顧客: BtoBかBtoCか、企業規模、業種
時間軸: 現在の規模か、3〜5年後の予測か
この整理を飛ばすと、AIの出力がぼやける。5分で書き出すだけで精度が変わる。
手順2:プロンプトを投入する(1分)
以下のプロンプトを生成AIに入力する。
あなたは市場調査アナリストです。
以下の条件で、TAM/SAM/SOMをボトムアップとトップダウンの両方で推定してください。
【市場】日本の中小企業向けクラウド会計ソフト市場
【地域】日本国内
【対象顧客】従業員300名以下の中小企業
【時間軸】2025年現在
各推定について:
・計算の前提条件を明示すること
・使用する数値の出典(統計名・発行元)を記載すること
・保守的/ベース/楽観的の3シナリオで提示することポイントは「出典の明示」と「3シナリオ」を指定すること。この2つを入れるだけで、出力の実用性が上がる。
手順3:AIの出力を確認・修正する(10分)
上記プロンプトに対し、生成AIは以下のような出力を返す。
【ボトムアップ推定】
| 項目 | 数値 | 出典 |
|------|------|------|
| 日本の中小企業数 | 約336万社 | 中小企業庁「中小企業白書」 |
| クラウド会計導入率 | 約32% | MM総研調査 |
| 平均年間契約額 | 約15万円 | 各社公開価格より推計 |
TAM: 336万社 × 15万円 = 約5,040億円
SAM: 336万社 × 32%(導入意向あり層)× 15万円 = 約1,613億円
SOM: SAMの5〜10%(新規参入想定)= 約80〜161億円
この出力に対して追加プロンプトで精度を高める。特にSOMは「市場の○%」ではなく、自社の営業力から積み上げる方が実務では使える。
SOM深掘り用の追加プロンプト(コピペOK):
上記のSOM推定をもう一段具体化してください。
・競合上位3社(freee, マネーフォワード, 弥生)の推定シェア比率
・自社の営業リソース(営業5名、月間商談20件)を前提にした獲得可能社数
・初年度の現実的な契約社数と売上額をボトムアップで算出これを投げれば、会議で「その5%の根拠は?」と聞かれても答えられる数字が出る。
手順4:シナリオを比較する(10分)
単一の数値ではなく、3パターンで提示すると説得力が増す。
| シナリオ | TAM | SAM | SOM |
|---------|-----|-----|-----|
| 保守的 | 4,200億円 | 1,200億円 | 60億円 |
| ベース | 5,040億円 | 1,613億円 | 120億円 |
| 楽観的 | 6,000億円 | 2,100億円 | 210億円 |
「なぜこの幅になるのか」をAIに説明させ、前提条件の違いを明記しておく。これが後の社内説明で役立つ。
手順5:前提条件を記録する(4分)
推定値そのものより、前提条件の記録が重要だ。以下を必ずメモする。
市場の定義範囲(何を含み、何を含まないか)
採用率・成長率の根拠
単価設定の根拠
AIが参照したデータの時点
前提が明記されていれば、数値がずれた場合にどこを修正すべきか即座に判断できる。
用途別プロンプト例
既存市場の規模推定
【市場】国内法人向けサイバーセキュリティ市場
【地域】日本
【対象】従業員100名以上の企業
【時間軸】2025年現在
トップダウン(IDC等の既存レポート数値ベース)で推定してください。新規市場の仮説検証
【市場】日本の個人向け睡眠テック市場
【地域】日本
【対象】20〜40代の都市部在住者
【時間軸】2027年予測
市場が存在する根拠と、ボトムアップでの推定を提示してください。
類似市場(フィットネステック等)の成長率も参考にしてください。注意点
生成AIによる推定には限界がある。
データの鮮度: 学習データの時点に依存するため、最新統計は自分で確認する
数値の検証: AIが出す出典名が実在するか、必ずウェブ検索で裏取りする
用途の限定: 経営判断の「出発点」として使い、最終判断の根拠にはしない
特に出典の裏取りは必須だ。AIは存在しないレポート名を生成することがある。
まとめ
生成AIを使ったTAM/SAM/SOM推定の手順は5ステップだ。
調査条件を整理する(5分)
プロンプトを投入する(1分)
出力を確認・修正する(10分)
シナリオを比較する(10分)
前提条件を記録する(4分)
合計30分で、根拠付きの市場規模推定が手に入る。完璧な数値を目指すのではなく、意思決定の議論を始めるための「たたき台」として活用すべきだ。
関連記事
いいなと思ったら応援しよう!
この記事は noteマネー にピックアップされました

