【創作ミステリー】スノードームの祈り⑭雪の音色
創作ミステリーの続きです。コンサートが終わり、事件は終幕を迎えます。そしてその最後には、思いもよらない事実も待っていました。ラスト前の一話、どうぞお楽しみください。
雪の音色
——開演10分前。
心臓のリズムが徐々に早まり、舞台袖に控えていた私は、胸に抱いた楽譜をギュッと握りしめていた。
……石黒さんが夢見ていた舞台が、もうすぐ幕を開ける。
客席は半分程度が空いていて、埋まりは良くない。やっぱり身の丈に合っていなかったんだと幻滅しながらも、それでも私の演奏のためにお金を払い、この場に集まってくれた人がいるのだと思うと、重く沈んだ胸の底が、少しだけ軽くなる気がした。
聴いてくれる人のために、心を込めて弾きたい。
そしてなにより——私が殺めてしまった石黒さんに、私のピアノを捧げたい。
私ができる彼への手向けは、この方法が最善なのだと思う。
彼が私のピアノを愛してくれていたのは、本当だったから。
私のせいで死んでしまった彼が、本当にそれを望んでいるのかはわからないけれど——
それでも私は、彼のために、最後のピアノを弾きたかった。
——石黒さん。
どうか、見ていてください。
このコンサートは、私からあなたへの、償いの葬送です。
私にできる——たったひとつの、「さよなら」です。
——開演のアナウンスが始まった。
落ち着いた男性の声がマイクを通り、コンサートの開幕が告げられる。
まばらな拍手が鳴る。ホールの照明が落ち、ステージには、一筋のスポットライトが灯る。
丸い、月のような光の輪。
その光の中心を目指し、私は歩み出す。
最初で、最後のコンサート。
いつか私が夢見た舞台。
彼が願い続けた舞台。
一度は交わったふたりの夢を——私は、最高の演奏で叶えたい。
ピアノシューズのヒールが、ステージを鳴らす。
淡いブルーのスカートが揺れる。
辿り着いたスポットライトの下で、まばゆい光を浴び——彼が選んだシルクのドレスと、散りばめられたラインストーンは、星のように瞬き煌めく。
——拍手が、少しだけ強くなった。
そう大きくはないホールを見渡し、私は深々と頭を下げた。
私の演奏を求め、応援し、愛してくれた、すべての人へ。
精一杯の、感謝と謝罪を込めて——。
ゆっくりとピアノの前に移動し、長い間人生を共にしてきた友人と向かい合う。
楽譜を置いて広げると、そこからは、私とピアノの語らいの時間だ。
寂しい音。
あたたかな調べ。
激しい音色に、切なさを込めた曲。
——ピアノは語る。
喜びも、後悔も、まだ言葉にならないものさえ。
私の奥底に眠っていたすべてが、鍵盤に触れた瞬間、音へと姿を変えていく。
——私は、時間を忘れていた。
時間だけじゃない。
私が、何をしたのか。
今ここがどこで、どれだけの人がいて、どう見られているのか。
自分が自分であること以外のすべてを忘れ、私はピアノを奏で続けた。
指が走る。
リズムを刻む。
調べを紡ぐ。
そうして気がつけば、セットリストのほとんどが終わっていて、次は最後の曲というところまで時間は過ぎていた。
最後の曲は、私が石黒さんを想って作った曲だ。
『雪の音色』。
彼が最高傑作だと愛した曲が、このコンサートに幕を引く。
私は深く、深く呼吸をした。
瞼を閉じ、天を仰ぐように顔を上げ、これまでの人生を思い巡らせた。
——浮かぶのは、ひとりぼっちの記憶ばかり。
だけど私には、いつだって応援してくれるおじいちゃんとおばあちゃんがいた。
ピアノに出会わせてくれた、担任の先生がいた。
ここまでピアノを上達させてくれた、先生がいた。
それだけじゃない。
図書館の同僚や館長、楽器屋の店長さん。
石黒さんに——晴真さん。
私にとって薄い繋がりでしかなかった両親や、学生時代の友人知人——
そのすべてが、私の人生を作り上げていた。
——本当は、ひとりぼっちなんかじゃなかった。
私はそれに、ずっと気がつけなかった。
だけど、今だけは。
ひとりきりで、ただピアノを弾こう。
私だけの音を、全身全霊で捧げよう。
私のピアノを愛してくれた石黒さんに。
私のすべてを愛してくれた晴真さんに。
私を見ていてくれるみんなに。
この想いを——届けるために。
そっと、鍵盤の上に指を乗せた。
一音目を奏でる前、鍵盤と触れた指先が緊張する。
深く吸った息で胸を満たして、吐いて。
ペダルを踏み込むと、空気がわずかに震えた気がした。
——ポーン。
雪の結晶がひとかけら、舞い落ちるように。
弦と私の心が、最初の音に震える。
冬の静けさの中——私の「雪」が、降り始める。
世界のすべてが、音になって。
そうして——雪の音色は、終わる。
私とピアノに、終わりがやってくる。
席を立ってステージの真ん中に歩み出ると、私は背筋を伸ばし、しっかりと頭を下げた。
拍手が鳴る。
その大きさは、少ない観客の数からは想像できないほどに盛大なものだった。
顔を上げて見れば、みんなが一生懸命に手を叩いていた。
後ろの方の席では、聴取に来た刑事さん——南雲さんと夏目さんが、穏やかに微笑んで拍手をしてくれている。
そして舞台袖や、ホールに控えたスタッフさんも……みんなが拍手をしながら、私を笑顔で見ていた。
——ああ。
私、夢を叶えたんだ。
ひとりでいたくないって、誰かといたいって。
ずっとずっと願ってきた、小さな頃からの夢を——今、私は。
とめどない想いが湧き上がり、私は涙をこぼした。その涙を自分の手で拭いながら、私はもう一度礼をして、舞台袖に帰っていった。
——コンサートが、幕を閉じる。
私の人生の一幕も、ここで終わろうとしている。
自らの罪を語ることで、その幕を、自らの手で下ろすのだ。
胸の奥に灯っていた熱が、静かに冷えていく。
終演の余韻とともに、心のなかに空白が生まれる。
その空白に忍び込むのは——非難、叱責、嘲笑、孤独。
……真実を晒せば、どうなるのか。
暗い未来が、足元から這い寄ってくる。
自分から罪を打ち明けることが、こんなにも怖いなんて知らなかった。
想像するだけで、心が砕けそうになる。
——それでも私は、進まなければならない。
この血の流れない痛みこそが、私の罰だから。
消えない罪。
終わらない悔い。
——命を奪った者として、私が背負うべき、たったひとつの責任だから。
……止まっていた足に、再び力を込める。
拍手に包まれた舞台を背にして。
光を落としたホールを渡り。
私はただひとり、前に進んでいく。
私を待つ——裁きの元へと。
***
拍手は鳴り止まなかった。
魂のこもったすべての演奏が終わり、観客はその熱の余韻に浸ったまま、惜しみない賛辞をいつまでも送り続けていた。
俺と夏目もまた、彼女の去った舞台を見つめながら、最高の演奏に拍手を送っている。
だがいくら讃えても、彼女は舞台に戻っては来なかった。
アンコールに応えることなく無情に幕は下ろされ、観客はやがて、彼女の決断を受け入れ席を立った。
「……アンコールは、ないんですね」
拍手を止めた夏目が、未だステージの上を見つめながら、どこか寂しげにつぶやいた。それに倣うように、俺もまたステージへと視線を重ねる。
「ここで終わりにすると、最初から決めていたんだろうな」
主役の去った舞台の明かりが、ふっと消え去った。
ステージの上に残されたのは、さっきまで白峯が魂を預けていたグランドピアノ、ただひとつ。
光を失い、闇に包まれ、それでもなお——熱はまだ、そこにあり続けた。
——心が、震えていた。
言葉にならない衝動が、胸の奥を揺らしていた。
古びて錆びついた感性が、呻き声をあげるように。
閉ざしていた扉が、こじ開けられるように。
鈍く、けれど確かに。
心は強く、振動していた。
ピアノの向こう側。
ガラス越しに見える、中庭に目を向ける。
ライトアップされて輝くツリーは、まるで墓標だ。石黒が命を落とした小さな雪山のそばで煌めき、途切れたひとりの男の人生を、無言で称えている。
狭く、時が止まったような丸い世界の中に、雪は静かに降り続けている。
それがまるで、スノードームのようで。
その光景に——公子の顔が、鮮明に浮かぶ。
『……綺麗だなぁ』
雪の舞うスノードームを見つめ、うっとりとしていたあの横顔。
無邪気で、純粋で、大切だったあの笑顔。
かけがえのない思い出が、俺の罪を呼び起こし——胸を穿つ。
「……ボスが指示したんですよね」
懐古に捉われていた俺の側から声が聞こえ、意識が今に引き戻される。
「……あ?」と惚けたように応えれば、夏目は遺体発見現場である雪山に視線を向けながら、俺に問いかけてくる。
「現場のことです。保全を解いて片付けるように言ったのは、ボスですよね」
確信を持ったように言って。夏目は、おもむろに俺の方へと瞳を託す。
——事件が起きてからずっと、雪山にはカラーコーンが置かれ、テープが張られ、ブルーシートがかけられていた。
だが今はもう、その物々しさはない。熊井と牛田に頼み、保全のための物はすべてコンサート前に撤去させた。
——事件は解決したと、そう告げて。
「……せっかくのコンサートに、風情を邪魔するようなモンがあったら台無しだろ。俺ら警察も、そこら辺は空気を読まないと」
「普段はものぐさなのに、そういうところは配慮がありますよね」
「えっ、それ褒めてないよな?」
「褒めてますよ。……ボスらしいなと」
ふっと、眉を下げ。夏目の精悍な表情が、優しく穏やかに和らいだ。
その言葉のあたたかさと柔らかさに調子が狂い、俺は思わずそっぽを向く。
「……まぁ、無駄に歳取ってないからな。これくらいは年の功ってやつだ」
言い払い、席を立つ。夏目もそれに合わせ、襟を正しながら腰を上げる。
「ホールの外で白峯を待ちましょうか」
「ああ」
すでに観客のいないホールを、俺たちは後にする。最後の客である俺たちはスタッフに見送られ、扉からホール前の待合スペースへと場所を変える。
まもなく、ここに白峯がやってくるだろう。
俺と夏目はガラス張りの壁際に肩を並べると、ホテルの外に広がるどこまでも続く雪景色を見つめながら、彼女が現れるその時を待った。
北海道の冬は、まだ終わらない。
けれど、どれだけ長い冬にも終わりは訪れる。
春が来て、夏が来て。
その季節の巡りの先に——新しい道は、必ず待っている。
「……お待たせしました」
背後から、穏やかな声が聞こえた。
振り返れば、そこにいたのは白峯あかりだった。
コンサートを終えたばかりのドレス姿は艶やかで、外庭で話していた彼女の慎ましさとは印象が一変していた。
姿格好のせいだけじゃない。
まるで、憑き物が落ちたような——そんな、晴れやかな表情のせいでもある。
「……お待ちしてました」
顔を綻ばせ、彼女を歓迎する。
彼女は俺と夏目の前に歩み寄り、交互に視線を交わした。
ほんの少しだけ、呼吸を整えて。
自分の決意を確かめるように瞳を伏せ、そっと息を吐く。
そして両手を握りしめ、迷いを断ち切るように口を開いた。
「私が、石黒さんを殺しました。……彼を突き飛ばして、死なせてしまいました」
強い意志のこもった、静かな言葉で。
「…………殺すつもりなんて、なかったんです。ただ……怖くて。逃げたくて……それで、思わず……。でも、私が突き飛ばしたことで、彼は、足を滑らせて——」
だけどすぐに、喉を詰まらせて。
込み上げる涙を許さぬように瞼を強く閉じ、白峰は、もう一度懸命に言葉を紡ぐ。
「……でも、どんなつもりであったとしても……彼が私のせいで死んだのは事実です。……本当に……申し訳ないことをしました」
謝罪と共に、深く頭を下げる。
その頭は、いつまでも上がらない。
俺はそんな彼女を受け入れるように、そっと許しを差し出した。
「……自首の決断、ありがとうございます。こうして自ら名乗り出ていただけるのは、我々としても助かります」
白峯がようやく顔を上げる。
罪悪感に張り詰めた表情が、俺たちを窺うように縋ってくる。
「お話はまず、富良野警察署で伺います。その後は道警に移送し、詳しい取調べを行わせてもらいます」
「ちょっとの間不自由な思いをするかもしれませんが、付き合ってもらえますかね。あ、晩飯まだなら用意しますよ。セーコマのカツ丼。取調べには欠かせないでしょう?」
事務的でお堅い夏目を退けるように、俺は軽やかな口調で繋いでみせる。
重い空気を跳ね除け、おどけたノリで誘いかければ、彼女はきょとんとした顔をして……ようやく、頬と唇をわずかに緩めた。
くすりとこぼれた小さな声に、つやめく黒髪が揺れる。
「取調べにカツ丼って、ドラマだけの話だと思ってました」
「それは正しいですよ、実際。警察ってのは気の利かないところでしてね。お茶のひとつも出てこないんですよ。だから、カツ丼は俺のおごりです。……素晴らしい演奏を聴かせてもらった、せめてものお礼に」
白峯の瞳が、驚きに見開かれる。いつもならすかさず肘鉄を入れてきそうな夏目も、同じ思いでいるのか、黙って聞いている。
「……ありがとうございます。私の最後のピアノを、聴いていただいて」
万感の感謝に微笑み、白峰は涙を滲ませる。
その答えに夏目はサッと驚きを浮かべ、とっさに口を開いた。
「最後?ピアノはもう弾かないんですか?」
珍しく感情的な問いかけは、夏目もまた、彼女の演奏に心を動かされたひとりだからだろう。
白峰が、首を縦に振る。その瞬間、ドレスのラインストーンが、名残り惜しむようにきらりと輝いた。
「……本当は、今日で石黒さんとピアノを卒業しようと思ってたんです。私が、私の人生を選ぶために。……晴真さんと、この先の人生を一緒に生きていくために」
今ここにはいない、想い人を思い描いて。
決意を語る表情は、愛に満ちて美しかった。
「結城さんは今日、来ていないんですね」
「これは私のケジメだったので。どうしても……ひとりでやり終えたくて」
華奢な姿からは想像もつかないほどに、彼女の意志は強かった。
動画に映っていた彼女は、どこか自信に欠いて頼りなげだったのに。たったひとつの恋が、彼女をここまで強くしたのだろうか。
「でも結果、呼ばなくて正解でした。私が捕まるところを、彼に見せずに済みましたから」
自虐的に笑い、けれど後悔を滲ませ、彼女は一歩前に進む。
——そこに、夏目の端末の着信音が鳴り響いた。
「はい、夏目です。……そうですか、承知しました。——ボス。熊井刑事からです。護送の迎えのためこちらに向かっているそうですが、雪道でもう少し時間がかかるそうです」
端末を耳元から離し、ひっそりと報告された内容に、俺は「んー」と短く考え込む。
「じゃあ、護送車キャンセルって言っといて」
「え?」
「俺たちの車で連れて行こう。どうせ俺たちで聴取するんだから、その方が手っ取り早いだろ?」
「それは……そうですけど」
本来、犯人の移動は護送車を使う。その決まりを破るような俺の提案に、夏目が判断を迷わせる。
だが俺は、その案を強行しようと白峯に同意を求める。
「白峯さんもそれでいいですかね?むさくるしい車内での道中になりますけど、いかにも捕まりました、みたいな護送車よりも、多少は落ち着くと思いますよ」
それは、罪を認める彼女への敬意だ。少しでも彼女を苛むものを取り除けたらという、俺からのささやかな気持ちだ。
それが通じたのか通じてないのか——どちらにせよ、白峯は俺の提案を受け入れた。
「……刑事さんが、そう言ってくださるなら」
「ならそうしましょう。陸、頼んだ」
「……わかりました。引き返していただくよう伝えます。熊井刑事と牛田刑事には、あとでボスから謝ってくださいね」
「はいはい」
夏目は電話越しに用件と謝罪を伝えると、通話を切り、懐に端末をしまい込む。
それを見届け、白峯は、俺たちにそっと両手を差し出した。
——手錠をかけろ、ということだろう。
「手錠はかけませんよ。白峯さんには必要ないでしょう?」
「そう……なんですか?」
「あれは逃げたり暴れたりするヤツをとっ捕まえるモノなんで。そういうこと、白峯さんはしないでしょう?」
「……はい」
「なら、このままで。……署まで、ご同行願えますか?」
白峯は静かに、けれどたしかに、強く頷いた。
夏目が付き添うように隣に並び、先を促す。
彼女が、長い贖罪への道へと踏み出した。
——その時だった。
俺と夏目の端末が、同時にメールの着信音を鳴らした。
閃くような予感に弾かれ、俺は素早くメールの内容を確認する。
そこに書かれていたのは——
「……白峯さん」
「はい」
「ひとつだけ、あなたにお伝えしたいことがあります」
「……なんでしょうか?」
「石黒さんが、宿泊していた部屋でスノードームを手作りしていたのを知っていますか?」
「……?いえ、知りません」
「そうですか。……実はですね、石黒さんの部屋で、奇妙なスノードームを見つけたんですよ。あなたがもらったスノードームと同じものなんですが、ひとつだけ既製品ではなく、手作り用キットで発注していたようでして」
「……それが、どうかしたんですか?」
「……今、その手作りスノードームの鑑識結果の速報が届きました。スノードームの中身の水から毒物が検出され、内蔵されたオルゴールが鳴り終わると、スノードームに開けられた穴から毒が揮発し、毒ガスになるという細工がしてありました」
「……え?」
「石黒は、このスノードームを贈り物として用意していました。その送り先の相手は——結城晴真さんです」
「…………石黒さんが……晴真さんに……?」
瞳が、溢れるほどに見開かれる。
突如顔を出した真実は、白峯にとって衝撃的な事実だった。
言葉を失くし、瞬きも忘れ——彼女は、自分が救ったものの大きさを甘受できずにいる。
「白峯さん。あなたは確かに石黒さんを殺めてしまったかもしれない。しかし——そのおかげで、たしかに救われた命があります」
その因果を知り——白峯は、嗚咽にも似た、声にならない声を漏らす。
「……私は……晴真さんを、守ったんですね」
「はい」
「……それなら……私の過ちにも、少しだけ意味があったんだって……そう思っても、いいのでしょうか」
「……思ってください。それであなたの苦しみが、少しでも和らぐなら」
彼女の瞳に、涙があふれていた。
それがどんな想いの涙なのか——俺たちにも、そして彼女自身にも、きっとわかりはしなかった。
だがそれはきっと、ひとつの救いの形だ。
凍った想いが溶け出し、雪解けが訪れるように。
閉塞をもたらしていた器が割れ、解放されるように。
彼女の冬は——終わりを告げる。
「……さぁ、行きましょう」
導けば、彼女は今度こそ自らの足で歩き出す。
涙を流したその後で。
孤独と手を取り合い。
長い長い、贖いの旅路へと——。
