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日中台の複雑な三者関係を背景とする壮大な人間ドラマ―姫田光義著『小李(シァオリー)の歌一海峡をこえて』(文芸社文庫、2020年)によせて

著者の姫田光義氏は、本職は中国近現代史を専攻する歴史家で、中央大学名誉教授。
歴史畑、それも近現代史に関心をもちつづけてきた身としては、専門地域こそちがうとはいえ、中国革命を中心とした業績をもつ姫田氏については、かなり以前からその名は知っていた。
今回、縁があって、お会いしたわけではないのだが、共通の知人を介して小説2冊を贈呈していただいたので、さっそくそのうちの1冊を読んでみた次第だ。

話の軸の1つは、天安門事件が背景となっていて、そこでは2つの恋愛の行方が焦点となる。
もう1つの舞台、台湾では、日本統治時代や2.28事件(戦後、日本軍武装解除のために進駐していた蒋介石国民党政府による反政府派への政治的弾圧。いわゆる白色テロ)を背景とする別の恋愛があり、そこに天安門事件によって「脱北」した、留学中の日本人国際政治学者(本書の主人公で、上記2つの恋愛の1つはこの彼と現地女性とによる)が絡む。

あえて話の詳細は記さないが、日中台の複雑な三者関係を背景とし、さまざまな歴史的事象が交錯する、なかなか壮大な人間ドラマで、中国近現代史という専門性が存分に発揮された内容だと感服した。
米中対立に絡んだ台湾海峡問題が深刻化している現在こそ、こういう本はもっと注目されるべきではないかとも思っている。

同時に、本書を読みながら、中国近現代史についての不勉強を痛感させられた。
朝鮮については、近代だと半分は日本史でもあるということもあり何冊か読んでいるのだが、中国についてはほとんど読んだことがないなといまさらながら気づかされた。
なので、この機会に姫田氏の著作もふくめて何冊か読んでいこうかと思っている。

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本書の舞台の1つである台湾については、少しだが勉強したことがある。
2015年12月に、東京労働学校三多摩教室で台湾実践学習旅行が実施された。
残念ながら私自身は諸事情で参加できなかったのだが、運営委員として事前学習は積極的に組織した。

その一環として、台湾の部族セデックと日本軍とが衝突した霧社事件を描いた台湾の大作映画『セデック・バレ』(計280分程度、2011年〈日本公開は2013年〉DVD2枚)も観た。
映画タイトルは、霧社地域の部族セデックの災い(バレは英語のbale)といったような意味合いだ。
この霧社事件も、本作の理解を深めるうえで重要なトピックスとなっている。

台湾は一般的に親日派が多いといわれる。
たとえば、もともと、中国共産党に敗れ、反攻することをめざしていた国民党が親中国になっていることは、一見、不思議にみえるのだが、そこには、反中国の民進党と反対の立場をとることがあるとともに、共産党が統治する中国であっても、そこは自分たちの故郷である大切な中国だという複雑な思いがあり、台湾生まれの3代目、4代目の世代になっても、外省人をルーツにもつ彼らのアイデンティティになっているといわれている。

一方で、清王朝に見捨てられたという思いと、日本の統治にも激しく抵抗した経験をもつ本省人をルーツとする人たちが多い民進党は独立志向が強く、中華民国ではなく、台湾共和国を名乗りたい思いがあるといわれる。
また、差別はあったにしても、当時はアジアで最もすすんだ技術や文化に浴した日本統治時代の方が、国民党による戒厳令時代よりもましだったという思いもあるようだ。

要するに、あえて単純化すれば、国民党=親中国(反日)、民進党=親日、という傾向にあるということらしい。
私なりの受け止めを付け加えれば、かつて日本に侵略された中国本土や、台湾と同様に日本の植民地だった朝鮮半島との対比で、必ずしも親日一色ではないにもかかわらず、「台湾=親日」というようにみえるという面もあるのだろう。

本書では、こうした複雑な台湾人の対日意識についても、小説という性格を考慮してか、きわめて簡潔な説明を、無理のないかたちで挿入している。
いや、この問題だけではなく、歴史的背景についての説明は、あえて必要最小限にとどめているように感じる。
それは、一定の歴史的知識があれば、本書の世界観により入り込みやすくなることはたしかだが、それなしでも読めるように配慮しているからではないだろうか。

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ちょっと残念に思うのは、主要な登場人物の「行く末」について、におわす程度でもいいから盛り込んだうえで、物語を閉めてほしかった。
少なくとも、上記した日本人学者の相手女性がどうなったのかについては、何某かの記述があった方が、よりまとまりがよくなったように思う。

それはそれとして、一読の価値はあると思うので、興味を覚えた方はぜひ。

(2022年6月4日記)

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