97歳の草間彌生はいま、何をしているのか/現代アート/アーティスト/美術市場
世界各地で大規模展が続き、かぼちゃや水玉の作品が絶えず流通しているため、過去の作品とスタジオによって巨大なブランドが維持されているようにも見える。しかし2026年現在の草間は、回顧されるだけの作家ではない。1929年生まれの97歳となった今も、新しい絵画を制作している現役作家である。
現在の制作の中心は、2021年に始まった絵画シリーズ《毎日愛について祈っている》だ。

草間は2009年から2021年まで、約900点に及ぶ《わが永遠の魂》を制作した。その後に始まったのが、この新しいシリーズである。公式略歴でも、自然、愛、生と死を超えた無限を主題として、現在も創作活動を続けていると説明されている。
2026年3月から5月にオオタファインアーツ・シンガポールで開催された個展では、《毎日愛について祈っている》の新作・近作30点以上が展示された。つまり現在の草間は、昔の代表作だけで評価されているのではない。いま本人によって描かれている作品が、継続的に発表され、国際的な展示へ送り出されている。
ただし、若い頃のように本人が世界各地を移動し、街頭や展覧会場でハプニングを行っているわけではない。
現在の活動は、草間自身による日々の制作と、その作品を美術館、財団、ギャラリー、スタジオが世界へ展開する体制に分かれている。したがって「草間本人が世界中で活動している」というより、本人は東京で制作を継続し、その作品と思想が世界各地へ運ばれていると考えるほうが正確だろう。
2026年には、その規模を示す展覧会も相次いでいる。

ドイツのルートヴィヒ美術館では、3月14日から8月2日まで、初期作品から絵画、彫刻、ファッション、文学、パフォーマンス、インスタレーションまで、300点以上を集めた大規模回顧展が開催された。会場には2025年制作の新しい「インフィニティ・ミラールーム」も組み込まれている。草間が歴史上の作家であると同時に、現在形の作家として扱われていることが分かる。
この回顧展は、2026年9月からアムステルダム市立美術館へ巡回する予定である。過去70年以上の活動を振り返りながら、近年の作品まで含めて草間の位置づけを検証する、美術史的な再評価が進んでいる。
東京の草間彌生美術館でも、8月30日まで「クサマズ・ポップ」が開催されている。
この展覧会では、草間を単なる「水玉とかぼちゃの人気作家」としてではなく、1960年代の大量消費社会やポップ・アートとの関係から読み直している。ただし、ウォーホルらが商品や著名人のイメージを反復したのに対し、草間の反復は幻覚や強迫観念という極めて個人的な体験に根差している。その違いを示すことが、現在の再評価の重要な部分になっている。
現在の草間彌生には、二つの時間が同時に流れている。
一つは、本人が新作を描き続ける「制作の現在」。もう一つは、70年以上に及ぶ仕事を世界の美術館が検証し、美術史へ位置づけ直す「評価の現在」である。
かぼちゃや水玉が商品や観光的イメージとして消費される一方、その根底には、幻視、強迫、自己消滅、生と死、宇宙という一貫した問題がある。草間が現在も描き続けているという事実は、その表現が完成済みのブランドではなく、今なお本人にとって必要な行為であることを示している。
草間彌生はいま、世界を飛び回る作家ではない。
東京で制作を続けながら、その新作と70年以上の仕事が、世界各地の美術館で同時に提示されている。彼女の「現在」とは、97歳でも制作しているという話だけではない。
生涯をかけて反復してきた表現を、美術史の側がようやく本格的に回収し始めた、その時間なのである。
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