【掌編小説】互いに安心する
ある日いつものように食堂に行くと混み合っていた。休み時間は容赦なく終わる。
席をぐるっと見回す。
たった1つ席が空いていた。
相席だけどこの際仕方ない。
その席を目掛けてダッシュ。
「すみません。ここ良いですか?」
スマホを見ていた彼はコクンとうなづく。
よかったあまり喋らない人だ。知らない人から社交辞令とはいえあれこれと話しかけられるのは苦手だ。私は全く喋ろうとしない相手にホッとした。
これなら壁と同じ。そう同じ。背景だ。
BGMと同じ。そう言い聞かせてテーブルの上に荷物を置いて貴重品のバッグを持って料理を取りに行こうとした。
ふと視線を感じた。見ると、前の席の彼がテーブルの上に置いた荷物を見た後、私の目を見た。
まるで「荷物、見ておくよ。」と言ったように見えた。いや、気のせいだろう。
ただ私が動いたから見ただけだろ。
休憩の終わりまでもう20分しかない。
すぐに日替りフライ定食を受け取って席に戻り急いでかきこむ。
やりかけの仕事が気になりながらそれを頭から払い退けて急いで食べた。
ふと気がつくとじっとこちらを見る視線とぶつかった。
初めは目の前の小さな目がまるで急に大画面のように私の周りに広がって自分がその中に飲み込まれたかと思った。周りには宇宙の映像のようなものがあった。あったと言うより包み込まれていた。
本の一瞬だったのか長い時間だったのか分からない。
何これ?
目の奥が広々として別の世界が広がっていた。
SF映画などで言うならワープしたような感覚だ。
でもすぐに夢から覚めるように元に戻り目の前の宇宙が消えた。もしや彼は宇宙人なのでは?
いやいやそんな事あるわけない。1人心の中で笑った。
ここのところ残業続きであまり眠れていないからだろう。
思わず両手で目を擦った。
すると、頭の中で
「うわーっ!」と慌てるような大声が響いた。
「こいつ変身する気じゃね?魔女か?」と続いて聞こえた。
なんだろう?初めて頭の中で自分以外の声が聞こえた。これも気のせいかな。
でも確かに危なかった。この形で外で目を擦るのは厳禁だ。迂闊だった。
何が出てくるか分からないのだから絶対にしてはいけないポーズだった。能力が人に知られればこの静かな私の居場所で安心して過ごせなくなる。
何かある度に能力を出さないように繊細な注意を払ってきたのに何十年もの努力が無駄になる。
もしも彼がテレパシーが使える人だとしても…。ぼんやり食後のコーヒー飲んでいる姿を見たら、まぁありえないだろうと思った。
急いで食べ終えた私は荷物をさっとまとめて席を立った。
「まさか魔女とかあるわけないよな。一瞬、俺の宇宙をのぞかれたと思ったよ。危ない危ない。」と後ろの方から音もなく声が頭に入ってきた。
