BPB File-004
『御守りの意味』
BPBって一見するとブラック企業に思えるでしょう?
それがそうでもないんです。
ちゃんと福利厚生はしっかりとしているし、週休二日制だし。
って考えていると、
「お前は騙されている」とか言う先輩がちらほら。
榊原先輩は、僕をこの仕事に引っ張りこんだ張本人なので言いません。この間聞いたら、口が苦そうにモゴモゴしてました。
それはさておき、今日は花の金曜日。仕事も定時上がりなんですよ。
「浮き足立ってるな、デートか?」
「いえ、前の職場で仲良くしてた同僚と食事です」
近場で飲もうってことになり、約束したのである。
「じゃ、お先に失礼します!」と元気に出た。
その姿にBPB日本支部リーダーの大石さんが
「榊原、あいつにお守り持たせたのか?」と聞いた。
「あっ」どうやら忘れていたらしい。
「無自覚の怪異ホイホイが発動しないと良いわね」と、
ポンっと肩をつき、吉田まり調査員も退室した。
「街中で発動したら、指導役の榊原さんの責任ですよ?」
「怖いこと言うなよ。そうそう発動しないだろう?」
「先日の飛翔体が都内の公園だったからな。あいつの怪異ホイホイ度は、日に日にアップして来ていると俺は思う」
と改めて大石さんに言われた。
「…渡してきます」榊原さんが折れた。
「それが無難だな」と、大石さんが机から紺のベルベット調のケースを榊原に渡した。
「資産管理部が特別製で用意してた代物だ。お守りを既に渡してたら交換って言われてた。ちょうど良いな」
お守りとは、ネックレスである。
認識票とセットに魔除けの紋章が彫ってある。
怪異に出くわすと光るとか言われているが、榊原自身は見たことがない。
スマホで篠崎に電話した。
「あっ、榊原だ。今どこだ?ちょっとどうしても渡しておきたいものがあってだな。…うん、ああ、じゃ駅で」
最寄駅で待ち合わせになった。
まだ店に到着前で助かったなと思う。
⸻
○○駅 北口
まだ18時前だが、ラッシュ時刻になってきたのか、人が混んできた。
篠崎は北口で待っていた。
「月曜日じゃダメなんですかねぇ〜」
早く友人たちと合流したい気持ちが勝っている。
20分ほどして榊原先輩の姿が見えた。
「先輩〜」
「悪いな。これ、大石さんから渡しておけと」
ケースを開ける。
「お前専用のお守りだ。ホイホイ避け」
「ホイホイ避けって酷いなぁ」
首に掛けた瞬間、
ピカーーーーッ!!🚨
「おお!」
篠崎は慌てて外す。
光は消える。
「故障じゃないですか?」
「資産管理部製だぞ?」
再び持つと、また光る。
行き交う人々は誰も気づかない。
「これ、どこに怪異いるんですか!?」
榊原は周囲を見回す。
そして駅前のモニュメントに目を止めた。
「こんな彫刻あったか?」
大きさは五メートル級。
上部の突起物が——ギロリ、と動いた。
「お!動いた。希少怪異『塗り壁』だ」
「いやいやいや!駅前にいるやつじゃないでしょ!」
塗り壁はゆっくりと首を回した。
周囲の人間は誰も気づいていない。
認識が“補正”されている。
「見えてるの僕たちだけですか?」
「BPB適性持ちだけだ」
塗り壁は通路を塞ぐように動く。
しかし誰も止まらない。
すり抜けていくように歩いていく。
篠崎は寒気を覚えた。
「これ放置したらどうなるんです?」
「基本無害だ」
榊原はスマホを構える。
『収容対象:塗り壁(都市適応型)』
『状態:興奮』
『役割:境界安定因子(暫定)』
「役割って何ですか!?」
「知らん」
即答だった。
その瞬間。
ピカーーーーーーッ!!
篠崎の首元が再び警告灯のように光る。
塗り壁の目が輝く。
まるで“見つけた”という反応。
「……あれ?」
榊原は視線を逸らした。
「篠崎。」
「はい。」
「どうやら“認定”されたな。」
「ペット扱いしないでください!」
塗り壁が一歩近づく。
ずずずずず……
そのとき。
榊原は軽く塗り壁に手を置いた。
「今日はここまででいい」
その一言で、空気が変わる。
塗り壁は数秒静止し、
やがて薄くなっていく。
“理解した”ように。
そして消えた。
⸻
「……消えた」
「またどこかに出るだろ」
榊原は何事もなかったように言う。
「じゃ、飲み会行ってこい」
「あっ、忘れてた!」
篠崎は走り出す。
「お守りは付けとけよ」
「えーーー!」
⸻
週明け。
BPB日本支部玄関横に、見覚えのあるモニュメントが設置されていた。
誰も申請していない。
誰も設置理由を知らない。
ただ一つだけ記録が残っていた。
◆◆◆
BPB内部報告書:簡易抜粋
対象:塗り壁(No.006-α)
状態:安定化
特記事項:
・対象は危害性を持たない
・対象は“観測対象の安全確保”を優先する傾向あり
・篠崎個体に対してのみ反応強度が異常値
結論:
当該怪異は「境界維持装置」として再分類を検討
補足:
本件は“個体依存型安定現象”の可能性がある
(※該当個体:篠崎)
⸻
報告書の最後には、手書きでこう追記されていた。
「たぶんあいつ、気に入られてるだけだと思うが」
— 榊原談
イラストはAIが作成しています。地名、駅名等はフィクションです。
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