【幕間】 萌え萌え〜
【幕間】萌え萌え〜
薔薇園騒動が落ち着いた頃
「だから何で!」
王宮図書館は、専門によって各執務室が割り振られている。
クラリスは、その中で女性ながら執務室が割り振られていた。
専門は、古代遺物に古代魔法講述、魔石による錬金術である。
決して、王都全般のデータ構築やデータ整理は専門ではなかったのである。
では、どうしてデータ整理系がここに集まっていたのか?
それは、作業効率という名目によるアレクシス王子の執務室もこのクラリス部屋に出張所を作成した為である。
本来は、先日の薔薇園騒動からの問題提起で、クラリスは職を辞したいと進言していたのだが、各省庁から執務が混乱するからと涙ながらに止められた。特に何故か王様の従者でもあるジェイク筆頭大臣が大瓶の胃薬を片腕に抱えながら来た。
「妥協案承りますから〜」と泣きの引き留め
クラリスは、困ってグレアムお父様を召集したら
リオと真琴が来る始末。
「何かね〜この際だから面白部屋にしたれってグレアムが言ってた。国家予算で作って貰えるぞってー」
リオは、他人事だと思って、楽しそうである。
真琴がちらりと視線を飛ばした先には、まだアレクシス王子がいる。
「いるんだ?」
「いるぞ!私は諦めたわけではない!」
アレクシス王子がクラリスに
「何故、この女は私にタメ口なのだ?」と聞く。
「敬意を払われる行動を伴っていないからです」と答えられる。横で真琴がはっきりと頷く。
「まずは、ここに私とリオの出入り自由ね」
「ですね!私からもお願いします」クラリス納得の要望だ。
アレクシスがレオンハルトは駄目だからなと止めている。
恋敵は嫌なようだ。
「宝物庫の古代遺物など見たいですなぁ」
こそっとリオが呟いてみる。
「それは、財産目録に影響を及ぼすので却下です」
ジェイクに止められた。
「では、最後に執務室の内装ですが」
ジェイク筆頭大臣が疲れ切った顔で書類を広げる。
「各部署との円滑な連携を考慮し、休憩スペースの設置が望ましいとの意見が出ております」
「休憩室なら普通に茶室でいいだろう」
アレクシス王子が言う。
すると、リオが手を挙げた。
「駄目です」
「何故だ」
「王宮職員の疲労は深刻です。癒しが必要です」
ジェイクが真顔で頷いた。
「事実です。ここ最近の胃薬消費量は前年比三倍です」
「そんなに!?」
真琴が驚く。
ジェイクは静かに報告書を差し出した。
「特に薔薇園騒動以降、精神的疲弊が顕著でして……」
クラリスが申し訳なさそうに目を伏せる。
するとリオが、待ってましたとばかりに立ち上がった。
「そこで提案があります!」
嫌な予感しかしない。
真琴は即座にそう思った。
「名付けて――
『古代文明風メイド喫茶・萌え萌え遺跡』!!』
部屋が静まった。
「却下だ」
アレクシス王子が即答する。
「まだ内容を説明してません!」
「名前の時点で嫌な予感しかしない」
珍しく真琴も完全同意だった。
リオは負けない。
「ご安心ください!店員は魔導人形です!」
「予算は?」
ジェイクが死んだ目で聞く。
「国家予算で」
「駄目です」
即答だった。
しかし、その時――
クラリスがぽつりと呟いた。
「……古代文明の給仕文化の研究にはなるかもしれません」
全員が振り返る。
まさかの専門家が興味を示した。
リオの目が輝く。
真琴は天を仰いだ。
終わった。
絶対に終わった。
「では、猫耳メイドゴーレムを!」
リオが元気よく宣言する。
「何故、猫耳なんだ」
真琴が素朴な疑問を口にする。
「可愛いからです!」
「理由が雑!」
真琴は額を押さえた。
確かに猫耳は可愛い。
しかし、効率性を考えるなら別の形がある。
脳裏に浮かぶのは、地球で見た飲食店の配膳ロボット。
猫っぽい顔をした、あの機械だ。
料理を運び、音声案内を行い、時には愛嬌まで振りまく優秀な存在。
「……猫型配膳ゴーレムじゃ駄目なのか?」
真琴がぽつりと呟く。
空気が止まった。
「……配膳?」
クラリスの目が光る。
まずい。
研究者の目だ。
「自律移動機構を備えた魔導人形という事ですか?」
「まあ、そんな感じ」
「障害物回避は?」
「多分できる」
「経路学習は?」
「その辺も」
クラリスが立ち上がった。
机に紙を広げ始める。
「待ってください。魔石制御と古代術式を組み合わせれば――」
「あ、これ駄目なやつだ」
真琴は察した。
研究者に餌を与えてしまった。
リオは大喜びである。
「では鳴き声も付けましょう!」
「鳴き声?」
「注文を届けたら『にゃー』です!」
「いるか?」
「必要です!」
必要なのか。
誰も答えられなかった。
⸻
そして数日後――
王宮内を静かに走る猫型配膳ゴーレム。
ジェイク筆頭大臣の前で停止する。
『胃薬ヲオ持チシマシタ。オ仕事オ疲レ様デス』
「……誰ですか。こんな機能を付けたのは」
全員がそっと視線を逸らした。
真琴だけは知っている。
犯人はたぶんリオだ。
⸻
猫型配膳ゴーレムが静かに執務室へ入ってくる。
『ジェイク様。胃薬ノ時間デス』
「……まだ昼前なのですが」
『本日ノ予定カラ計算シマシタ。三十分後ニ胃痛発生確率八十七パーセントデス』
ジェイクは少し考えた。
そして静かに胃薬を受け取る。
「……先に飲んでおきましょう」
誰も否定できなかった。
猫型ゴーレムは続ける。
『本日ノ精神負荷予測。アレクシス王子関連九十二パーセント』
「高いですね……」
『クラリス様関連六十五パーセント』
「えっ」
『リオ様関連百二十パーセント』
「百を超えてる!?」
『測定不能ノタメ補正値デス』
ジェイクは遠い目をした。
正確だ。
恐ろしいほど正確だった。
その様子を見ていた真琴がぼそりと呟く。
「……これ、もう補佐官じゃないか?」
「いえ」
ジェイクは首を横に振った。
そして珍しく穏やかな笑みを浮かべる。
「私の部下です」
その瞬間、猫型ゴーレムの耳がぴこんと動いた。
『上司認証完了。ジェイク様ノ残業時間削減ヲ最優先事項ニ設定シマス』
ジェイクは数秒沈黙した。
「……素晴らしいですね」
誰もが耳を疑った。
あのジェイクが。
いつも胃を痛めている筆頭大臣が。
穏やかな笑みを浮かべている。
『本日ノ推定削減時間。三時間二十七分』
「導入しましょう」
即答だった。
「早い!」
真琴が思わず突っ込む。
ジェイクは静かに眼鏡を押し上げる。
「これは娯楽ではありません」
そして、重々しく宣言した。
「行政効率化です」
「絶対建前だろ!」
真琴の叫びが王宮に響いた。
そして、一つだけ誤算があった。
『リオ様接近。危険度:極大』
「何故ですか!?」
『前例多数』
(リオが災害指定されてる…まっ、いっか)真琴感
=====================
今回の幕間は、テレビ番組影響のおまけ話です。
アクセス数が3000ビュー超えたのもあるんですわ。
ちょっとハイテンションで💦
本当に感謝しかありません。
これからもどうぞよろしくお願いします。
