【外伝】 冒険はほどほどに
【外伝】冒険はほどほどに
王都にある極悪傷跡片目グリズリー店長のお店と自宅は別にある。
明日の仕込みも終わり、店長は戸締りをして帰路に着く。
王都に程近い森の中、手作りログハウス。
庭には、奥さんの好きな林檎の木がシンボルツリーだ。
「ただいまァ」
ビュークの声に——
バタバタバタバタ!!
とんでもない勢いの足音が響いた。
「おかえりー!!」
「だっこー!!」
「おみやげー!!」
三つ子達が、ビュークめがけて飛びつく。
肩にぶら下がり。
腕によじ登り。
首に抱きつく。
「クー!首にぶら下がるなァ」
「えへへー!」
やんちゃな長男クーは、今日も元気いっぱいだ。
「ビーは順番待ててえらいわね」
次男ビーは、兄弟の中では少し引っ込み思案。
そして——
「ママ、今日ね!」
末娘ピニーは、誰よりおしゃべりだった。
家の奥から、手を拭きながら奥さんグリズリーが出てくる。
「おかえりなさい、あなた」
子供を抱きながら、ただいまの挨拶をする。
ちなみに奥さんは『マリー』で、店長は『ビューク』という。
「あのね、あのねー!」
三つ子達は、今日あったことを矢継ぎ早に話し始める。
「あなた、今日ね……」
マリーの日常の話を、ビュークは静かに聞く。
夕飯の後。
昼間あれだけ元気だった三つ子達は、すっかりお眠む状態だった。
クーは「まだねむくない!」と言いながら欠伸をし。
ビーは、ビュークの腕に抱きついたまま船を漕ぎ。
ピニーは、マリーの真似をして「まだへいきよ?」と言いながら、半分目が閉じている。
結局——
三匹まとめて、ビュークの膝の上。
巨大なグリズリー獣人の膝は、三つ子達にとって極上のベッドだった。
抱えて寝室まで運ぶのが、毎日の日課である。
⸻
「おかあさーん、あのねー!」
三つ子達3人の最近の遊びは、家から1キロほど離れた場所に住む、同じ獣人のヒグマ兄弟と遊ぶこと。
三つ子より2歳年上の兄弟は、街の学校へ通っている。
来年入学予定の三つ子達には、憧れの存在だった。
この日も、その兄弟の家から戻ってきたばかりらしい。
「新年〜!」
「新年ー!」
「……しんねん」
「成人の日〜!」
「成人の日ー!」
「……せいじん」
一年の最初から順に覚えたての言葉を叫んでいる。
マリーは、洗濯物を干しながら苦笑した。
「はいはい。次は?」
すると——
「母の日!」
「母の日ー!」
「ははのひ〜!」
三匹は、顔を寄せ合ってヒソヒソ相談を始める。
母が喜ぶ顔。
それを想像するだけで、にやにやが止まらない。
でも——
母を喜ばせるには、何を贈ればいいのか?
友達のヒグマ兄弟は、母の日に花をプレゼントするという。
「お花かー」
でも、うちの母熊は花好き。
父熊が建てた家の周りを、花でいっぱいにしている。
「庭のお花取ったらママ泣くよ!」
これは暗黙のルールだ。
——いや、昔にやらかしてますから。
「ママね、お料理大変なの」
ピニーは、特にマリーが大好きだった。
料理中は、いつもそばにいる。
三つ子+ビュークの身体を支える料理量は、当然ながら半端ではない。
三人の大好物『カボチャのポタージュ』など、大鍋数個は必要になる。
「何か、ママを楽にできる道具ないかな?」
三匹は相談する。
「道具って言えば、ドワーフ印ってパパ言ってた」
「でもさ、お金持ってないよ?」
「えっとぉ……私たちのとっておき持っていったら?」
子グマ達の“とっておき”。
大事に隠していた『あれ』を持って——
三匹は街へ向かった。
本当は、まだ子供達だけでのお出かけは禁止されているのだけど……ね?
⸻
王都の街。
本日フィオナは、ボランティアでお年寄り達の治療を行っていた。
最近では、すっかり街の相談役である。
神殿の仕事を奪わない程度の、軽いボランティア活動だ。
その横では、真琴が包帯を巻いていた。
街の人達には、使用済み包帯を洗濯して持ち込んでもらっている。
こうすれば、持ち出しが減る。
ただ——長い包帯を巻き直す作業は面倒らしい。
「全く、せっかく神殿辞めたのにボランティアなんて」
「クスクス……そういう真琴だって手伝ってるでしょ?」
「こ、これは必然ってやつ!情けは人の為ならずって言うんだから〜!」
「はいはい、真琴は優しい!」
「フィオナなぁー……」
顔を赤くして俯く真琴。
「らしくないぞー真琴」
いつの間にか来ていたリオが、からかうように言った。
「リオ!」
そんなやり取りをしていると——
街中を、三匹の子グマが大きな袋を抱えて、よてよて走っている。
「あらまぁ?」
フィオナが最初に気付いた。
「お母さん熊はいないのかなぁ?」
真琴も声を掛ける。
「あのねぇ、あの……ドワーフ印の道具屋さん知りませんか?」
フィオナ、真琴、リオは顔を見合わせた。
⸻
カラーン……
リオ行きつけのドワーフ道具店。
「よお、リオ。いらっしゃい……って今日は大人数だな」
「ああ。今日は僕じゃなくて、この子達が親父さんに用があるんだって」
「ほお、小熊さん達や何用だい?」
ドワーフ店長は、子グマ達の前へ腰を落として話しかけた。
子グマとはいえ、ドワーフと並ぶと大きさはそこまで変わらない。
「あのね、もうすぐ母の日なの!」
「なのー!」
「ははのー!」
リオがぽんっと子グマの頭を軽く叩く。
「長男が代表して話せ」
「えー」
クーは頬を膨らませながらも話し始めた。
「ママね、お料理いつもたくさん作るから大変なの。楽にできるお道具欲しいの」
「おー、そりゃあ殊勝なこった」
「しゅしょう?」
「えらいってこと」
フィオナが笑顔で答える。
三匹は照れ照れと顔を見合わせた。
「だがなぁ。うちの道具は特別製だから、そんじょそこらの道具より高いぞ?」
すると三匹は、大事そうに抱えていた袋を広げた。
「僕たち、まだお金持ってないから……僕たちのとっておき持ってきた」
「あらまぁ……」
フィオナの口癖が漏れる。
「これは……」
リオも言葉を失った。
袋いっぱいに入っていたのは——胡桃。
それも、大粒の大胡桃ばかりだ。
「胡桃ね。それもこんな大胡桃、私初めて見た」
真琴がひょいっと摘まみながら言う。
「いや、たとえそうだとしても、うちは物々交換は……」
ドワーフ店長も困惑気味だった。
「リオ、この胡桃買い取って!」
真琴がびしっと指を差す。
「リオ、お兄さんだもの……ね?」
フィオナの圧も強い。
「えぇ〜……」
露骨に引くリオ。
「それで、どんな道具が欲しいんで?」
既にドワーフ店長は、リオが買い取る流れだと判断していた。
「んーとね。ママね、『カボチャポタージュ』得意なの!」
「おいしいの〜!」
他の二匹も黙っていられない。
「でも、たくさんのカボチャつぶすの、とってもたいへん!」
「たいへーん!」
身振り手振りで必死に説明する。
「それで、道具ね」
真琴は感心したように頷いた。
「うーん……杵か?」
ドワーフ店長が腕を組む。
すると——
「えー、ここに真琴がいるのに杵?」
フィオナがぱっと顔を上げた。
「えっ?」
嫌な予感しかしない。
「リオ、クラリス呼んできて」
「クラリス仕事中!」
真琴が即ツッコミ。
「大丈夫!真琴が閃いたって言えばすっ飛んでくる!」
「えー!?閃き前提!?」
リオがクラリスを呼びに向かい。
ドワーフ店長は、道具作りの準備を始める。
真琴は、やれやれと子グマ達に道具のイメージを聞きながら、クラリスを待った。
⸻
「これが報酬?」
リオが不満げに呟く。
街外れのチョコレート専門店、アリアの店。
カウンターには、真琴、フィオナ、リオ、そしてクラリスが並んでいる。
目の前には、手作りナッツチョコ。
もちろん、子グマ印の大胡桃入りである。
アリアが、リオから大胡桃を“安く”買い取ってくれたのだ。
「何言ってるのよ!功労者は私とクラリス!」
真琴が胸を張る。
ドワーフ店で作られた魔石道具は、しっかりドワーフ印入り。
熊さんサイズの、大型ブレンダーとなった。
⸻
極悪傷跡片目グリズリー店長の家。
夕飯後の団欒。
三匹は、そわそわしながら大きな箱を抱えていた。
「母の日〜!」
「いつもありがとうー!」
「ありがと〜!」
リボンぐるぐるの大箱。
マリーは驚きながら、それを開けた。
中に入っていたのは——
魔石道具のブレンダー。
もちろん、熊さんサイズである。
「……っ」
マリーの目に、じわっと涙が浮かぶ。
ビュークは横で慌てていた。
「お、お前達……どこからこんなもん調達してきたァ!?」
⸻
後日。
フィオナ達には、はちみつ店から特別メニューが届けられた。
「情けは人の為ならず〜」
ふにゃ〜んと幸せそうな真琴とフィオナ。
「……なんか違くない?」
リオだけが、納得していなかった。
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