【第2章】 第25話


【第2章】第25話 お嬢様とピンクの伴い


ボルボロの街、領主館

元気を取り戻したエイルシアと、拘束を解かれた領主の前に——
真琴たち一行は揃っていた。

領主もすっかり洗脳が解けたようで、受け答えにも問題はない。
「…では、馬車はこちらで確かにお預かりいたしますので」

途中飛んだ記憶も補足して説明もした。

「無事に砂漠へと出発出来ます」ヴィクトルが言った。

「……あの」

控えめな声。

振り返ると——

領主の娘が立っていた。

その頭の上には。

「……亀?」

レオンハルトが思わず呟く。

小さな、ピンク色の陸亀。

ちょこんと乗っている。

「この子……離れなくて」
困ったように笑うが、その表情はどこか嬉しそうでもあった。

クラリスが、じっと亀を見る。

「……その個体」

「ヴェールタスの影響を受けた残滓ですわね」

「え?」

「完全には消えなかった“変質”ですわ」

エイルシアが
「私も——」

一歩、前に出る。

「旅にご一緒させてくださいませ!」

「は?」

レオンハルトが素で返す。

「いやいやいやいや!」

ヴィクトルも止めに入る。

「正気か?」

「正気ですわ」

真っ直ぐな視線。

その先にいるのは——

リオ。

「……え?」

リオが固まる。

「色々と……興味がありますの」

ほんのり頬が赤い。

「特に——あなたに」

「ちょっと待って⁈」

リオが後ずさる。

真琴は、腕を組んだ。

じーっと見る。

リオとお嬢様を。

「……ふーん?」

ニヤリ。

「いいんじゃない?」

わざとらしく肩をすくめる。

真琴は、少しだけ考える素振りを見せてから——口を開いた。

「……と、言いたいところだけど」

その場の空気が、わずかに変わる。

「ここから先は、あまりに危険すぎるの」

お嬢様の表情が、わずかに揺れる。

だが真琴は、続けた。

「でもね」

一歩、距離を詰める。

「帰りには、必ずこの街に寄るわ」

まっすぐに視線を合わせる。

「だから、それまでに——」

軽く、目配せ。

その先には、心配そうにこちらを見つめる領主の姿。

「この街の“残滓”を一掃しておいてくれると、助かるかな」

一瞬の沈黙。

お嬢様は、ゆっくりと振り返る。

父の姿を見る。

そして——

「……はい」

小さく、しかしはっきりと頷いた。

「お任せくださいませ」

その頭の上で、ピンクの亀がちょこんと揺れた。

まるで——同意するかのように。

砂漠への支度を整え、一行はボルボロの街を後にした。

乾いた風が、背中を押す。

振り返れば——

街の入口。

エイルシアが、こちらに向かって大きく手を振っていた。

「お気をつけてー!」

その声は、どこか明るさを取り戻している。

その背後には、領主の姿。

静かに娘の肩に手を置き、見送っていた。

「……良い顔になったな」

レオンハルトがぽつりと呟く。

「ええ。街も、少しは落ち着くでしょう」

クラリスが小さく頷く。

——そして。

「……あれ」

真琴が、目を細めた。

エイルシアの肩。

その上に——

ちょこんと乗った、ピンクの亀。

「……増えてない?」

「増えてるな」

ヴィクトルが即答した。

よく見れば——

領主の肩にも、もう一匹。

さらに足元にも、のそのそと。

「……増殖してないか、あれ」

レオンハルトが苦笑する。

「残滓ですわね。完全には消えていなかったようです」

クラリスは、どこか楽しげに言った。

「……まあ、危険はないでしょう」

「多分ね」

真琴は、肩をすくめる。

——手は打った。

あとは、任せるしかない。

この街の未来もまた、彼女たちの選択に委ねられている。

再び前を向く。

広がるのは、果てしない砂漠。

その先にあるのは——古代遺跡。

「行くわよ」

その一言で、一行は歩き出した。

背後では——

ピンクの亀たちが、のんびりと日向ぼっこをしていた。

まるで、何もなかったかのように。

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