【雲間月怪異譚】 第52話
【雲間月怪異譚】第52話 トイレの花子さん
※注意※
本作『雲間月怪異譚』には、
怪異・都市伝説・因習・和風ホラー表現が含まれます。
薄暗い話や、
“じわりと嫌な感じ”のする話が苦手な方は、
どうか無理をなさらず回れ右でお願いします。
それでも覗いてくださる方は――
どうぞ、雲間の怪異譚へ。
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学校怪談で一番有名なのは、トイレの花子さんだろうか?
学校は、昭和に建てられた古い方がいいらしい。
校舎の教室のある一番上、大概が三階かな。
学年はこだわりがないらしいね。だって、僕の通っていた小学校は、三年生が2階だったから。
と言うわけで、三階の一番奥の西側トイレ、入り口から入って3番目の扉を3回ノックする。
時間は、夜中だとも夕方で良いとも言われるね。
ノックをして、こう尋ねるんだ。
『花子さんいらっしゃいますか?』と言うと個室からかすかな声で「はい」と返事が返ってくれば、交信成功になる。
扉を開けると、そこには赤い吊りスカートに襟付き白ブラウスのおかっぱの女の子が出てきて「あそぼ」とトイレの中に手を引かれて異世界に連れ込まれる。
と言うのが、基本情報だったかな?
本日は、怪談イベントで懐かしの学校怪談というのをスタジオで数人の怪談師さんを呼んで始めている。
「そうですね。昭和から平成にかけて、トイレの花子さんは学校怪談の代名詞的なお話で有名ですよね」
「はい。平成の頃には朝の子供番組内でアニメとかもあったせいもあると思います。すっかりそのアニメの影響でヒーロー扱いですがね」
「ハハハ、ヒーローですか。時代は変わりますね」
本日は、『怪談小噺』という番組の公開スタジオで、ステージと客席に分かれている。
客席には、すでに抽選で50人ほどの人々が着席している。
ステージには、僕こと三日月保に、常連の秋野しのぶさん。
『怪談小噺』主催の夜祭せいやさんと声優のMayaさん。
ベテラン怪談師の綾野ブレンドさんと若手の谷川JOYさんです。
「ここで、トイレの花子さんの話が出たのはですね、実は令和の花子さんと言う話が噂されてるそうなんですよ」
学校の怪談思い出話をしてきた流れから、トイレの花子さんの話を振られたのだけど、今回はその令和の花子さんの話に持っていきたかったからなんだね。
「それは、どう言った話なのでしょう?」
声優のMayaさんは、この『怪談小噺』専属MCなんだけど、とても聴きやすいトーンで話を進めてくれる。
今回その令和の花子さんという話を持ち込んだのは、若手怪談師の谷川JOYさんだ。
「その話は、僕からです。実は、小学校じゃなくて高校での話なんですよ」
「谷川さんは、今おいくつですか?」
「20歳です。この話は僕の実体験です。今から3年前なので、令和の花子さんなんですよ」
そこで、みんなの「へー」と相槌が起こった。
令和は今年で8年になる。3年前となると令和の5年頃か。
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令和の高校生と言えば、進学に意識が向いた高上心溢れた子供達ばかりではないんだよ。
大学進学すら、親や教師の流されるままに行動するものもいる。
成績も振るわない部活に心酔し、高校生活を送る者。
僕はその部類だったんだ。
決して進学校とは、呼べない三流高校は、設立が超昭和の時代だとかで、その当時の木造校舎が市の指定文化財扱いで敷地内にあったんだ。
全体を薄水色のペンキが塗られ、そこかしこ剥がれた壁色に時代を感じる。
今回の物語はその旧校舎で起きた怪談なので、令和のってタイトルは異論あるかな?
と、ここで客席にわざと聞いてみると、キャーキャー声が上がる。
アイドルですか?と隣席の秋野さんに目で確認すると頷いていた。
「何部だったんですか?」
「写真部です。アナログのフィルムで写すことにこだわってたんですよ」
そう言って、話を続けた。
アナログにこだわって、その旧校舎でノスタルジックな映像を良く撮影させてもらっていた。
ちょうど夏休みに入り、時間をかけて撮影許可を取らしてもらっとんだ。
夏休みだから、静物だけぞゃなくて、衣装にこだわったモデルなんかも配してね。モデルと言っても同級生のコスプレーヤーだからね。
時間を忘れて撮りまくった。
教室、廊下、音楽室や美術室なども。
夕方にさしかかり、仲間内から声が上がったんだ。
「トイレの花子さんもやらない?」って。
流石に衣装に赤い吊りスカートなんてなかったけど、
襟付きの白いワンピースに赤いスカートを重ねて、それらしく衣装は出来た。
トイレは、階段を上り、三階のトイレ。旧校舎のトイレは、各階に男女が隣立って、ひとつしかない。
旧校舎には、僕ら以外はいなかったから、女子トイレに抵抗なく撮影機材を準備した。
外はもう夕方に差し掛かる時間。夕日に染まってきていた。
旧校舎のトイレは、床はタイルが広がり、中は、入り口向かって右側に三列並び、左側は、鏡と手洗い場が三つだった。
「じゃ、3番目のトイレに入ってくれる?」
トイレの扉は、人が入っていなければ開いているタイプなので、ここは他の二つにも人が入ってもらう。
全てのドアを閉めた状態で、ノックする。
今回は、写真だけでなくドキュメンタリー風に動画も撮ろうとなった。急遽なのでスマホ撮影ではあるけれど。
なので、トイレの中に入っている人が3人。
動画撮影、写真撮影、動画用のセリフを喋る人に照明の4人が移動していく。
「では、始めます。よろしくお願いします。」
先輩がGOサインで撮影が始まった。始まりは、入り口前から。
ある意味悪ノリなんだけどね。
「…ここは、昭和に建てられた旧校舎になります。木造で建てられた校舎は、廊下も階段の手摺りも木造で、ここ三年生の棟である三階も全て木造なんです。ガラスも時代を感じる曇りガラスの格子窓です。
これから、この校舎で噂のトイレの花子さんを実証したいと思います。
入り口から入って3番目のドアを3回ノックする。
『花子さんいらっしゃいますか?』と声をかける。
ドアを押して、開ける。という動作です。」
言いながら、スマホの動画撮影者と共に入っていく。
途中、途中で写真撮影の間も入れる。
3番目のドアの前で、セリフを言いドアを押した。
古い木造独特の軋みの音が響く。
内開きのドアを押す。
内側から白い手が伸びてくる。
セリフを話しているスタッフ役の先輩の手がその白い手に掴まられて、中へと引っ張っられる。
「うわーっ!」先輩の悲鳴と「キャーッ!」って声が上がった。
そして、バキバキバキバキ…って音がした。
僕たちは、撮影をそこまでで止めて、ドアをノックした。
「おしまい、おしまい。花子さんの姿見えてないし、撮影は中断!二人とも出てきてよ」
言って、二人が出てくるように言った。
他の個室に入っていたスタッフもみんな集まった。
だが、ここでみんなは見たんです。
3番目のドアの向こうには、先輩とモデル役の女子生徒のあり得ない姿が。
「あり得ない姿?あられも無いとか?」他の怪談師が茶化した返しをしたが、谷川さんは、シリアスに首を振った。
「……ドアが開いた瞬間、僕は何を見たのか理解できなかった。」
谷川さんは、一度言葉を切った。
「人間って……あんなふうには折れません。」
スタッフ役だった先輩と、花子さん役の女子生徒。
二人の首は互いの肩へねじ込まれ、腕と脚は縄のように絡み合い、関節という関節が逆向きに折れ曲がっていた。
まるで、巨大な子供が人形を握り潰して、一つに捻り合わせたような姿だった。
誰かが吐いた。
誰かが泣き崩れた。
僕だけは、その場から一歩も動けなかった。
……だって。
三番目の個室には、僕らが入れた二人しかいないはずだった。
なのに。
一番奥の壁際に、小さなおかっぱの女の子が立っていたんです。
白いブラウスに、赤い吊りスカート。
僕と目が合うと、その子は嬉しそうに笑って。
「また、あそぼ。」
そう言って、壁の中へ消えていきました。
この日、写真部が撮影した写真の
現像された写真は387枚。
だが、フィルムの番号だけは388まで続いていた。
最後の一枚だけが、どこにもなかった。
その一枚が、今でも見つかっていない。
そこには、何が映っていたんでしょうね。
「今もその旧校舎は、残っているんですか?」
「市の指定文化財なのでね。でも、立ち入りは禁止ですよ。
それと、この話には後日談があります」
「後日談ですか?それが令和たる所以ですかね?」
「三日月さんは、鋭いですね。ええそうなんです。この話は動画にも撮ったと言いましたよね?この話をして、動画をSNSで流すと場所が関係なく花子さんが遊びに訪れるんです。僕は、彼女が夢に『遊ぼ』って来るたびに動画を流すんですよ。今日も流してきました。見た人はいますか?」
客席のあちこちで手が上がった。
谷川さんは、その人数を数えるようにゆっくり見渡し、
にこりと笑った。
「……良かった。」
「今日は、いっぱい遊べますね。」
その言葉が誰に向けられたものなのか。
誰も聞き返せなかった。
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