【第3章】 プロローグ

【第3章】プロローグ

貿易で賑わう海洋都市『バニラアイス』

帆船が主流の時代。

だが、その交易路は世界へと繋がる大動脈だった。

港には積荷を運ぶ怒号。

潮風。

鐘の音。

異国の言葉。

そして――冒険者達。

「大海原は、魔物、脅威、夢と希望に溢れている――とか思ってそうな目をしているな、お前は」

「いやねぇ、心の声を読まないでくれる?」

否定はしない。

この夫には、今さら隠しても無駄だからだ。



「とりあえず、余所者が情報を得るなら冒険者ギルドでしょう」

夫も頷く。

どんな都市であろうと、冒険者ギルドとは街の“裏側”を支える場所だ。

情報。

治安。

探索。

調査。

時には、領主でも手を出せない厄介事まで請け負う。

だからこそ、街の目立つ場所に大きな看板を掲げている。

カラーン――

ドアベルの音と共に、二人は冒険者ギルドへ入った。

その瞬間。

ギルド内の空気が、わずかに止まる。

受付嬢を含め、そこにいた者達の視線が集まった。

深くフードを被った旅人。

一人は二メートル近い長身。

もう一人は女性らしいが、フードから覗く髪は珍しい緑色。

二人は周囲の視線など気にも留めず、真っ直ぐ依頼掲示板へ向かった。

ヒソヒソと囁きが漏れる。

「あの剣……」

長身の男の外套から覗く長剣。

使い込まれている。

だが、その鞘飾りと造りだけで、“名のある武器”だと理解できた。

「あなた、これが怪しい」

女が一枚の依頼書を剥がす。

それは他の依頼書と比べ、明らかに色褪せていた。

長期間、誰にも触れられていない証拠。



SSS級依頼

場所:エルシオン島

依頼内容:魔物討伐

賞金:応相談



女は、そのまま受付へ向かう。

「この依頼について、詳しく教えてくれる?」

受付嬢の表情が、わずかに強張った。

やがて奥へ引っ込み、大量の書類束を抱えて戻ってくる。

「……これが、これまでの調査報告書です」

慎重な声だった。

「依頼を受ける前に、必ず目を通してください」

そう言って、受付嬢は書類を差し出す。

「コピーですので、お持ち帰りいただいて構いません」

女は書類をめくる。

不確かな魔物情報。

消息不明になった調査船。

現在、定期航路は消滅。

航海記録の多くは――途中で終わっている。

そして。

船乗り達の呼び名。

『海喰島』

「あなた、ビンゴっぽいわよ」

「では、島までの船を探そうか」

その瞬間。

ギルド内が一斉にざわついた。

「お、おい待て……!」

「悪いことは言わねぇ、やめとけ!」

「SSS級案件だぞ!?」

それは、馬鹿にする声ではなかった。

本気で心配している声だった。

だが――

「大丈夫だ」

長身の男は静かに答える。

「私達は、SSS級ハンターだから」

沈黙。

誰も、それ以上止めることは出来なかった。



――後日。

ヴィクトル達と合流した際。

「……あのねぇ!?」

港中に響き渡るクラリスの声。

「行く前に言ったわよね!?
今回は“情報収集”優先って!」

机を叩く勢いで、クラリスは怒鳴る。

「実力に過信は禁物なの!」

「冒険者に探索心を止めるつもりはないわ! でも――!」

びしぃっ!

指を突きつける。

「報・連・相は必須!! 必須でしょう!?」

完全に逆鱗である。

その後ろで。

「……真琴があれ言ったら爆笑だったな」

ヴィクトルがぼそりと呟いた。

リオ。

フィオナ。

レオンハルト。

三人は必死に肩を震わせていた。



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