井戸は枯れた
[連詩]
間:
あんなに熱心に読んできたのに
村上春樹の新作を買うのを躊躇している
それは
駄作であることを恐れているから
最高傑作の『1Q84』が2010年
それが間違いなくピーク
2013年の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』
混迷を極めた低調さ
そして
2017年の『騎士団長殺し』
哀切きわまりない愚作
ここに書かれていたのは
それまで四十年近くにわたって書き続けてきた小説の
モチーフの展覧会
大河ドラマの総集編みたいなもの
それで気づいた
もう創作の泉は枯れ果てたのだ
GPT:
それでも
泉のそばを通るたび
水の音がしないか
耳を澄ませてしまう
間:
2023年の『街とその不確かな壁』は
過去作のリメイクだからカウントしなくていい
『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』
のバリアント
思わせぶりの百貨店
気力が充実しきっていた1985年
過去からの収奪
GPT:
それでも
新しい井戸を掘ったと聞けば
覗き込まずにはいられない
底に水があることを
期待しているのか
ないことを確かめたいのか
間:
そうだけど
この人が入るのは
いつも枯れた井戸だったね
『風の歌を聴け』でデビューしたのが1979年
ぼくは高校三年だった
痛ましい年頃に
その作品は刺さった
それから五十年近く経った
枯れない方がおかしいんだ
GPT:
そうか
きみは新しい水を待っているのではないのかもしれない
十七歳のきみが
あの井戸のそばに
まだいるのかどうか
確かめたいのかもしれない
間:
ぼくは村上春樹に
なにも返してない
そっちの方が問題なんだ
書店で『夏帆』が大量に面陳されてる
何が書かれていようと
出版業界にとっては
貴重な泉
耐えきれずに
最初の一章を立ち読みしたよ
眩暈がした
まごうかたない
愚作の気配だった
