見えないバトン
[連詩]
間:
その一瞬一瞬が
二度と帰らない
切実なものであることは
そのときには気がつかない
人はこんな風に弱っていく
母は週に二段階ほど悪くなっていった
夏は越えられないかもしれない
訪問看護師の見立ては
その通りになった
薬で痛みは消えた
そのかわり
意識が遠くなった
それは
仕方のないことだったのだろう
そばにいて
ぼくが戦う相手は
もういなかった
GPT:
がんばって
も
だいじょうぶ
も
届かない
間:
水を飲ませようとして
少しだけ唇を濡らす
それだけで
ひとつの仕事が終わったような
気持ちになる
スイカをひとかけ
水を少し
その次は氷のかけら
GPT:
人は最後まで水分を求める
それは生き続けるという証
間:
孫のような若い医者が
余命一年と
あっさり言った
セオリーはそうなのだろう
だけど
そこで必要なのは
セオリーではなかった
そして
一年というのはあまりに楽観的だった
GPT:
本当の終わりは
誰も予見できない
セオリーは
セオリーでしかない
間:
速かったのだ
あまりにも
介護ベッドのまわりには
ぼくの息子も娘も
みんな来た
もうみんな大人になって
長男は
娘も息子も連れてきた
一人ひとりの顔を見て
母は
静かに笑っていた
見えないバトンが渡された
このように人は病み
衰えていく
けれど
それだけではないことを
母は
最後に教えてくれた
