呪いの連鎖【第1章】〜母の不倫⑤〜
社会人になって
私の生活が学生時代とは変わる
彼氏がいて
1年くらい付き合っていた。
1歳年上の彼は目立つ存在ではなかったが
専門学校を早々に辞めて働いていた。
私と早く結婚したいと言っていたが
私は結婚に憧れてはいなかった。
働き始めて生活リズムが変わって
なかなか会えなくなったのがもどかしい様子だった。
私はと言えば
初めての仕事に就業する前の研修が約1か月あって、本店に同期達と集まっていて
定時に終われるので、結構な頻度で
飲んだり遊んだりしていた。
彼氏のことを、どうでもいいと思っていたわけじゃなかったが
自由に遊べるのが楽しかった。
父からも「社会人になったら自由」と言われていたので、本気で遊んでいた。
研修が終わっても同期達とは仕事終わりや、土日に集まり遊んでいた。毎日どこかへ行っていた。
やがて同期の1人の男性と仲良くなり
付き合うことになった。
彼に別れを伝えなければならない。
素直に納得してはくれず、自宅前に朝から待ち伏せされたりしたが、そのうち納得してくれたのか
連絡はこなくなった。
今の彼と過ごすようになって
どんどん依存していく。
「女は残業するな、自宅には19時にはいろ」など
規制をかけられてくる。
5歳年上の彼、そんなもんなのかな?と思うようになっていく。
同期達には内緒にしていたので相談もできない…
両親は相変わらずで
私がいようが、いまいが
母は週末はいなかったし、父も趣味の競馬を楽しんでいる様子だった。
私が週末家にいないので、夕飯の作り置きは
しなくなっていた。
完全に機能不全だった。
ただ、ひとつ屋根の下に、いるだけの存在。
そんな中、彼が変わってくる。
普段は優しい人。ただ気性が荒い。
プライドが高い。
だんだん色々わかってくる。
気に入らないことがあると手が出る。
車という密室で頭を掴まれ、窓にガンガン打ち付けられることもあった。
それでも私には彼しかいなかった。
ある時は平手打ちをくらい
片耳が聞こえなくなった。
異変に両親が気付き、病院に行ったら
鼓膜が破れていた。
流石に両親もこれはまずいと思ったか
彼を自宅に呼び出し、話し合いの場が設けられた。
表向きは好青年の彼は
「治療費は払います!申し訳ございませんでした」と父に土下座していたが
1度も支払われることはなかった。
なんなら金額を聞かれることもなかった。
それでも私は彼に依存していて
好きと錯覚していた。
私には彼しかいない。
そんなおかしな関係が続いて
私もハタチになった。
その日は残業でいつもよりかなり遅めの帰宅となった。
母はいなかったが、シンクを見ると
ワインの瓶が割られていて、赤ワインが垂れ流しになっていた。
父に「どしたの、これ?」と聞くと
「誕生日だから…。でも帰らないと思ったから」
なんとも言えない気持ちになった。
「残業だったんだよ…今日忙しくて…ホントに」
つらいのか、悲しいのか、説明しようのない気持ちになりながら私は答えた。
父は「そうか」とだけ言って、寝室に入って行った。何故かわからないが胸が苦しかった。
その頃から父は毎日胃薬を飲んでいた。
お酒も毎日飲む人だったが
必ず胃薬を飲んでからアルコールを飲む。
そんな姿を目にするようになる。
初夏になり、父はうずくまって
胃を痛がるようになった。
さすがに母も「病院に行こう」と説得し
2人とも仕事を休み病院に行った。
私は通常通り仕事をしていたが
帰宅すると父が寝込んでいた。
私が母に「どうだったの?」と聞くと
急遽胃カメラをしたんだけどうまくいかず
来週別の大きな病院を紹介されたという。
まだハタチの私には良くわからなかったが
家には家庭の医学なる分厚い本があり
【胃がん】について調べてみた。
怖くなった。尋常じゃない痛みに耐えている父を見ていると、そうなんじゃないか?と思えた。
でもまさか…
この頃の母は週末出かけなかった。
父が痛みで眠れなかったりしていたので
置いて出かけるわけにはいかなかったのだと思う。
紹介先の病院へ行く日
「何かあったら職場に電話して」と伝え
私は出社した。
だが、電話はなることがなかった。
帰宅するとやはり父はうずくまっていたが
入院することになったらしい。病名の説明はなかった。
緊急入院になったのだが、父がどうしても一回会社に行っておきたい、とのことで
入院日をずらしたが、この痛みでどうやって出社するのか…
翌日父は入院前の最後の会社へと朝から出勤した。私も母も普段通り、仕事へ行き
帰りにバス停で父とバッタリ会った。
父の手には荷物などを持ち帰ったのだろう、紙袋を2つ持っていて
ひとつ私が持ち、一緒にバスに乗って帰った。
「きちんと挨拶してきたよ、入院、長期って言われたから」
そうなんだ、長期なんだ?
「明日から入院だね。早く良くなるといいね」
自宅に戻り、やはり父は痛がって苦しむので
救急車を呼ぶか迷うくらいになっていた。
幸い入院先も決まっているので、呼ぼうとすると父に止められる。「大丈夫」と。
翌日、父と母は入院先の病院へ。
私は出社したが
今回は電話が鳴った。母からだった。
「先生から病状説明がある、夕方。どうする?来れる?」
ただならぬ気配を感じ、事情を上司に説明し
早退させてもらうことになった。
急いでも会社から1時間半。
間に合うか…微妙なので最寄駅からタクシーに乗り込む。
なんとかギリギリ間に合うと
母が待っていた。看護師さんがやってきて
父が気づかないように!と
病室から離れた部屋に案内される。
すぐに先生がやってきた。
先生の顔は深刻そうに見えた…
