第6章 チームで成果を出す(協働力) 第2節 協調と主張のバランス
新入社員の由美が配属されて、半年ほどが経ったころの話だ。
最初は右も左もわからなかった職場の空気にも、少しずつ慣れてきていた。
会議にも参加するようになり、発言の機会も増えてきた。
ただ、その分だけ新しい悩みも生まれていた。
「言いたいことを言えない」
あるいは逆に「言いすぎてしまう」
その間で、由美は小さなジレンマを抱えていた。
ある日の会議で、プロジェクトの進め方について意見が分かれた。
上司は「効率」を重視して、外部委託を進めたいと考えている。
一方で先輩は、コスト面からそれに反対していた。
会議は静かに議論が進んでいく。
それぞれの意見には、それぞれの理由があった。
由美も事前に調査をしていて、自分なりの考えを持っていた。
でも結局、発言はできなかった。
場の空気を読んでしまったのだ。
会議が終わったあと、先輩がふと声をかけてきた。
「意見があるなら、出したほうがいいよ」
やさしい言葉だった。
でも、由美の胸には少し痛く響いた。
翌週の打ち合わせで、同じ議題が再び持ち上がった。
そのとき由美は、少しだけ勇気を出した。
「外部委託の方が早いと思います。ただ、顧客対応に関わる部分は社内で行ったほうが、信頼を保てるのではないでしょうか」。
声は少し震えていた。
会議室の空気が、一瞬だけ静まる。
そのあと上司が言った。
「なるほどね。コストでも効率でもない、信頼、ってことだね。そういう視点もあるな」。
先輩も続けてうなずいた。
「顧客対応は大事だね」。
由美の一言で、議論の流れが少し変わった。
最終的にチームは、「外部委託は活用する。ただし顧客対応は社内で行う」という折衷案に落ち着いた。
会議が終わったあと、由美は少し不思議な感覚を覚えていた。
自分の発言が、チームの合意形成に役立った。
そんな実感があったからだ。
強すぎる主張は、対立を生むことがある。
でも、協調に寄りすぎると、自分の存在は見えなくなる。
その間にある「ちょうどいい場所」を見つけること。
それが、チームで成果を出すうえで大切なのだと、由美は少しずつ理解していった。
それからの由美は、発言する前にひとつのことを考えるようになった。
「この意見は、誰の役に立つだろう」
「どう伝えれば、相手に届くだろう」
ほんの少しの意識の変化だった。
でも、その積み重ねが、会議での発言の質を変え、周囲からの信頼を少しずつ育てていった。
協調と主張は、どちらかを選ぶものではない。
そのバランスを探り続けることこそが、チームで働く力なのだ。

協調と主張のバランスは、組織における協働力の中核を成す要素です。
心理学的には「アサーション(自己主張)」の概念が重要であり、これは自分の意見や感情を正直かつ適切に表現しながら、同時に相手の権利や感情も尊重する態度を意味します。
過度の主張は攻撃的に受け取られ、過度の協調は自己犠牲や不満の蓄積を招きます。
適切なアサーションが両者のバランスを実現します。
行動経済学においても「ナッジ理論」(『実践 行動経済学』(2009年))は、他者の選択を尊重しながらも自分の意見を提示する方法論を示しています。
例えば「あなたの案には共感する部分があります。その上で、こういう視点も考えられるのではないでしょうか」といった言い回しは、相手の立場を肯定しつつ自分の意見を主張する有効な方法です。
また、組織心理学では「グループシンク(集団浅慮)」の危険性が指摘されています(『集団思考の罠』(1986年))。
全員が過度に協調すると異論が封じられ、誤った意思決定につながりやすいのです。
チームに健全な多様性を保つためには、個々が勇気をもって主張し、同時に他者を尊重する姿勢が求められます。
キャリア形成の観点からは、アサーションスキルは職場適応力を高める資産です。
新人の段階で「協調しながら主張できる力」を身につけることは、長期的な信頼と存在感を築く礎になります。
特にグローバル化や多様性の進展する職場では、このスキルは不可欠です。

📘 自身を振り返ってみよう
あなたは会議や打ち合わせで、自分の意見を遠慮して飲み込んだ経験はありませんか?
逆に、自分の主張が強すぎて相手の意見を否定してしまった経験は?
今後は「相手を尊重しながら、自分の意見も伝える」ために、どんな言葉遣いや態度を意識できそうですか?
「協調と主張のバランス」
チームで成果を出すためには、協調と主張のバランスが欠かせません。
協調だけに偏ると、自分の意見が埋もれてしまい、組織全体の意思決定が偏る危険があります。
一方で主張だけが強すぎると、周囲の信頼を損ね、チームのまとまりを崩してしまいます。
心理学の「アサーション」の概念が示すように、大切なのは自分の考えや感情を率直に伝えつつ、相手の立場や感情も尊重することです。
例えば「あなたの意見には賛成できる部分があります。その上で、私はこう考えます」という言い回しは、協調と主張の両立を実現する方法のひとつです。
また、組織行動学では「グループシンク(集団浅慮)」という現象が知られています。
全員が協調に傾きすぎると、異論が出ず、誤った方向に進んでしまう可能性があります。
健全なチームには、異なる視点を出し合える環境が必要です。
そのためには、自分の意見を勇気を持って発信することが、むしろ協調を支える行動になるのです。
新人にとって重要なのは、「主張する=対立を生む」という思い込みを捨て、意見を伝えることがチーム全体の意思決定の質を高めると理解することです。
発言を恐れるのではなく、伝え方を工夫することで、主張と協調は両立できます。
その積み重ねが、信頼と存在感を育てる第一歩となるのです。

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