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【記憶の中の引き出し】自販機の思い出

カナダからこんにちは。Chaiです。
今日は初めての公募作品です。


「何これ?むちゃくちゃおいしい!!!」
午後の紅茶と出会ったのは中2の冬だった。


あの頃の私は習字を習っていて、帰りに自販機で飲み物を買うのが楽しみだった。
同い年の女の子と2人、自転車に乗って家の近くのスーパーの自販機が並んでいるところへ移動する。
温かい飲み物を飲みながらおしゃべりするのが恒例だった。

ある日新しい商品をみつけた。
缶に入った紅茶。
「午後の紅茶」と書いてある。
赤はストレートティー。
黄はレモンティー。
白はミルクティー。
緑は無糖。

2人で1つずつ買ってみた。
お互い一口飲んで顔を見合わせた。
「何これ?むちゃくちゃおいしい!!」

それ以来、毎週午後の紅茶を飲んだ。
「どれも捨てがたいけど、ミルクティーが一番やね。」という意見でまとまった。


40代になりスリランカを旅した。
北緯6度から9度の熱帯の島。
暑いところから涼しいところまで表情はさまざま。

紅茶エリアにも行った。
古都キャンディと避暑地ヌワラエリヤへ。
午後の紅茶の茶葉としてもおなじみのエリアだ。

キャンディは標高1000mくらい。
涼しく日差しが穏やか。茶畑で働く女性がにっこり微笑んでくれた。

ヌワラエリヤは標高2000mくらい。
現地ではイギリス人の避暑地として有名。
例えるなら「スリランカの軽井沢」。
水に恵まれていて涼しいので、いちごや野菜栽培でも有名な地域。

ミニバスは曲がりくねった道を行く。
白人の男の子が車酔いでぐったりしている。
6月中旬でも外は寒い。現地の人はセーターに毛糸の帽子。

くもってる? いや、霧が立ち込めている。
その時初めて「霧の紅茶」の商品名の意味がわかった。
正直「何?この気取った名前?」って思いながら飲んでた。
でもやっとわかった。
この商品名をつけた人もきっとここにたどり着いたにちがいない。

茶畑で働いている人たちは誰もが無表情だった。
肌にまとわりつく独特の空気。
寒くて、重くて、斜面を歩くのもきつい。
あまりの過酷な環境にびっくりした。
泣いた。

あの味は「彼らの手摘みの茶葉」と「ブレンドを考え続けてくれる人たち」がいるからこその賜物だと知った。

そしてイギリスによってインドから連れてこられたタミル人のこと、
地元シンハラ人との軋轢もなんとなく理解できた。

見渡す限りの緑の茶畑と深い霧、これぞプランテーション。
忘れられない旅になった。

2023年の春。
結婚して初めて夫と共に日本へ行った。
値上げラッシュの時期で、自販機の値段は190円になっていた。
それでもまだ肌寒い朝夕に、自販機で買う温かい飲み物はほっとした。
恵まれた国で生きていたんだなと改めて思った。

夫には「私が中学生の時から飲んでいる紅茶なの。」と紹介した。
夫も気に入って、カナダでも「午後の紅茶・ミルクティー」を買っている。


あの時の「おいしい!」は今でも忘れていないし、
「今でもおいしい」のは奇跡だと思う。
そして「おいしい」のために、努力してくれている人たちがいることも忘れない。


ときどき思う。中2の自分に会って言いたい。
「あなたは50歳になっても、カナダに移住してからも『午後の紅茶』を飲んでるよ。」
たぶんあの頃の私は――
「はー? 何言うてるかわからんわ。ふん!」って、いつもの生意気な口調で返してくる気がする。
あの自販機の前で。

おわり