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Salon de Thé in Parisーパリでアフタヌーンティーを

やっぱり、おいしい。

濃厚な栗のクリームを幾重にもまとった
モンブランが、さくりと軽いメレンゲの上で、どこか誇らしげに佇んでいる。

昨日、久しぶりに東武デパートの地下を歩いた。普段はあまり近づかない洋菓子売り場で、ふいに魅惑の美女
アンジェリーナのモンブラン
目が合ってしまった。

「ああ、これは連れて帰るしかない」
崩さないように、そっと箱を抱え家まで
エスコート。

そして一口食べた瞬間、
決まって私の脳裏に浮かぶ景色がある。

⛄二月のパリ、砂利を踏む音

四半世紀ほど前。
イギリス・ブリストルで学生生活を
送っていた頃の、冬のパリだ。

冬休みを利用して、2歳年下の友人・佐智と計画したフランス旅行。そこへ、クラスメイトの中国人・ジョアンも加わり、女三人の旅になった。

二人ともフランス語に心得があった。
当時の私は、英語すら怪しいのに「パリは英語が通じにくいらしい」という噂に、怯えていたので、彼女たちの存在はまるで最強の護衛だった。

早朝のパリに着いた私たちは、
ランチもそこそこに歩き回った。

どこまでも広いシャンゼリゼ通り。
お城みたいなルーヴル美術館。
「思ったより小さいね」
と失礼な感想を抱いたモナ・リザ。
真下から見上げたエッフェル塔は、
鉄なのに妙に艶っぽかった。
(鉄の貴婦人!)

凱旋門の階段を登り切る頃には、
もう膝が笑っていた。

そして、ノートルダム大聖堂。
あの時見たバラ窓の青を、
私は今でもうまく説明できない。
神秘的、なんて言葉では足りなかった。
「青に圧倒される」という体験を、
私はあの場所で初めて知った気がする。

たどり着いた、
いや流れ着いたチュイルリー庭園。
二月のパリは、容赦なく寒い。
曇天の下、砂利を踏む音だけが
「ザッ、ザッ」と響く。

「……疲れたね」

私たちはベンチに座り込んだ。
アジア人の女の子が三人、
寒空の下でぐったりしている。
すると佐智が、急にノートを取り出した。

「私、ここ行きたい。すぐ近くだから!」
彼女が指差した先に書かれていたのは、

【ANGELINA 226 Rue de Rivoli】

「パリでお茶しようよ

その一言に、私たちは救われた気がした。

温かい場所に行きたい。
甘いものが食べたい。
座りたい。

たぶん、あの時の私たちに必要だったのは、
芸術でも歴史でもなく、
糖分と椅子だった。

店の前には行列ができていた。
けれど意外とスムーズに進み、
ほどなくして店内へ案内される。

☕ベル・エポックの社交場

「Bonjour, Une table pour trois, s'il vous plaît?」
(こんにちは、3名、席ありますか?)

佐智がさらりと言う。

おっとりとして見えるのに、
この時の彼女はやたら頼もしかった。
旅先で「喋れる人」は、それだけで英雄になる。

「ドアの近くならすぐ案内できるよ。
少し寒いけど」

店員さんの言葉を通訳してもらい、
私たちは即答した。
「Oui, s'il vous plaît!」

中へ入った瞬間、思わず息を呑んだ。
豪華だった

歴史を感じる内装に対比してにぎやかな店内。
パリジャン・パリジェンヌが集う空間は、クラシックなのに古びていない。
金色の装飾も、大きな鏡も、シャンデリアも、
「パリです」と全力で語りかけてくる。

🍫「甘々フルコース」という名の贅沢

そして私は、いつもの癖で
周囲を観察し始めた。
多くの人のテーブルに並んでいたのは、
ホットチョコレートと金色のクロワッサン、
そしてモンブラン。

「あれが正解なんだな」

空気に弱い私は、完全に周囲に流された。

「ハルナは何にする?」
次はジョアンが通訳を買って出てくれた。
「……モンブランと紅茶かな」

すると店員さんが、
少し不思議そうな顔をしたらしい。

「ショコラ・ショーにしないの?」

いやいや。
モンブランにホットチョコレート(ショコラ・ショー)って。甘さの渋滞でしょ。

そう思ったのに。
気づけば私は、その“甘々フルコース”を
注文していた。
旅先のテンションは、ときに理性を狂わせる。

運ばれてきたモンブランは、完璧だった。

美しい。
そして、甘い。
ものすごく甘い。

でも、ただ甘いだけじゃない。
栗の濃厚さの奥に、妙な気品がある。

「ほぅ、これがパリか」

そんな意味不明な感想が、
頭に浮かんだのを覚えている。
そして問題のショコラ・ショー。

これがまた、衝撃的に甘い。

日本の「ちょっと濃厚なココア」などではない。
ほぼ“飲むチョコレート”。私は途中から、
水をチェイサーみたいに飲み始めていた。

見かねた佐智とジョアンが、
「ちょっと飲ませて」と笑いながら
手伝ってくれたのも、今ではいい思い出だ。

気づけば、店内でアジア人は私たちだけだった。

豪華なサロン・ド・テの片隅で、
私たちは英語と中国語と日本語を
ごちゃ混ぜにしながら、
「偽パリジェンヌ」を気取っていた。

そして、その日の夜。
サロン・ド・テで予算を使い果たした私たちの夕食は、途中のスーパーで買ったバゲットと洋梨だった。

でも、それが驚くほどおいしかった。

パリパリのバゲットに、
ハムとチーズとトマトを挟むだけ。
ただ、それだけなのに🥖

洋梨は、イギリスで食べるものよりずっと甘くてみずみずしかった。

「ブリストル、帰りたくないね」
そんなことを言いながら、安宿で笑い合った。

今思えば、あの旅で私たちは
「フランスの豊かさ」を食べていたのかも
しれない。

芸術だけじゃない。
建築だけでもない。

寒い日に飲むショコラ・ショー。
歩き疲れた後のモンブラン。
安いバゲットですらおいしい豊かな土壌。

そういう小さな体験全部で、
パリはできていた。
アンジェリーナのモンブランを食べるたび、
私は思い出す。

冬のチュイルリー庭園。
曇った空。
砂利を踏む音。

そして、若かった私たちの、少し背伸びした「パリの午後」を🥐
🍡🧀🍅


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