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【短編小説】⑮走り抜くこと〜誰よりも先に駆け抜ける〜

第15話 箱根の風に吹かれて

1月2日はあの箱根駅伝。
液晶テレビの中では
往路のデッドヒートが繰り広げられていた。

かつての梨央なら、
他人事として眺めていたその光景。


しかし今は、
画面越しに伝わるランナーたちの吐息や、
襷を受け渡す手の震えが、
自分のことのように肌に刺さる。

あの竹林の道で、
サークルの仲間と分かち合った
「走る喜び」が、
今の梨央には確かな実感としてあった。

そんな時、
スマートフォンに一通の連絡が入った。
顧問の早瀬からだった。
「明日、九時に部室に来い。話がある」

翌朝、学校へ向かうと、
グラウンドはまだ冬休みの静寂に包まれていた。

部室で待っていた早瀬は、
梨央の顔を見るなり、
一枚の書類を机に置いた。

それは、春の記録会に向けた
「正式な選手登録」の申請書だった。

早瀬「駅伝での走りは見た。
お前には、タイム取りの裏方で
終わる以上のバイタリティがある。
裏方で終わる人間ではない。

月見草という地味で美しい花もあるが、
お前は周りをもっと明るくする
向日葵になれ! お似合いだ」

梨央は一瞬呆然とし、
それから込み上げる笑みと一緒に言葉を返した。

梨央「先生、なぜ走りたくなったんだろう?
心地よくて、この間の駅伝大会の沿道からの
熱い風を受けて、冷めてた自分が
完全に目覚めたかなって、多分。アハハ」

照れ隠しのように笑った梨央だったが、
その瞳に迷いはなかった。
留年を避けるための「作業」として始まった陸上。

しかし、町のみんなと走り、
景色を守り、悠真から「熱い物語」を受け取ったことで、
梨央の中の何かが完全に変わっていた。

梨央「先生、私……走りたいです。
正式に、選手として受け入れてください」

梨央は迷うことなく、
選手登録の書類にペンを走らせた。
その様子を見ていた早瀬が、
柄にもなく少しだけ口角を上げた。

部室の窓の外では、
霙のようなシャリシャリとした
冷たい音が落ちる。
それは梨央にとって、
もう背中を丸める冷気ではない。


向日葵が太陽を探すように、
前を向いて切り裂いていくべき
「自分の風」に変わっていた。

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【完結】走り抜くこと

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