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【短編小説】⑦走り抜くこと〜誰よりも先に駆け抜ける〜


第7話 取材と言う名のデート

都心へ行こうと言い出したのは、梨央だった。
高層ビルの展望台から街を見下ろし、
低層階の水族館で薄暗い青に癒やしをもらう。

外食は豪華なディナーといかず、
僕らは財布の中身と相談して、
路地裏で見つけた安価な、
でも穴場で美味しいラーメン屋に逃げ込んだ。
それから、映画館。

どこからどう見てもデートの定番コースだけれど、
これはデートじゃない。
あくまで彼女の謹慎明けの、
ただの気分転換だ。

そう自分に言い聞かせないと、
隣を歩く彼女の体温に、
意識が持っていかれそうになる。

この展望台からの導線は、
どれも彼女が小学生の頃、
親に連れて行ってもらったコースなのだという。

「懐かしいだけだよ」と
はにかむ彼女の瞳は、
都会の派手なネオンを反射して、
少しだけ幼く、柔らかく見えた。

最後に入ったのは、
少し背伸びをした雰囲気の喫茶店だった。
向かい合わせで座ると、
テーブルの下で互いの膝がぶつかりそうなほど近い。

学校の教室では決して許されない距離感に、
心臓の音がうるさくなる。
聞きたいこと、喋りたいことが、
いつになく素直に溢れ出した。

僕が知りたかったのは、
梨央の謹慎の真相だった。
野次馬みたいな興味じゃない。

図書室の片隅で一人、
静かに耐えていた彼女の、
心の奥に澱んでいる“本心”を掬い上げたかった。

梨央は一度視線を伏せ、
氷の溶けかけたグラスを指でなぞった。
それから、独白のような告白が始まる。

言葉は途切れ途切れで、
壊れものを扱うような危うさがあったけれど、
そこには嘘の混じらない彼女自身がいた。

僕は、彼女の声が途切れる瞬間の、
長い沈黙までメモしておきたい衝動に駆られた。
「……その話、記事(新聞)にしていいかな」
勢いで口にしてしまい、拒絶されるのを覚悟した。

だけど梨央は、ふっと息を吐いて小さく頷いた。
「いいよ。……もう、
隠してまで守りたいものなんて、ないから。」
決して強がりには見えなかった。

ただ、一人の女子高生が、
重い荷物をようやく下ろしたような、
そんな潔い顔をしていた。

喫茶店を出て、
混み合うターミナル駅へ戻る

19時を過ぎ、
制服姿の僕らは、
仕事帰りの大人たちの奔流に飲み込まれそうになる。

周囲の大人たちは
巧みに人を避けて進んでいくのに、
僕らは肩をぶつけないように歩くだけで精一杯だった。

そのとき、近くを歩いていた20代前半のOLが、
すれ違いざまに男に激しくぶつけられた。
男は何事もなかったような顔で、
雑踏へ消えようとする。

梨央が反射的に駆け出した。
僕も遅れて、
ローファーを鳴らしてアスファルトを蹴る。

改札付近で男を追い詰め、
二人で必死に取り押さえた。
駆けつけた駅員に引き渡すまで、
心臓のバクバクが止まらなかった。

後日、犯人はその駅で何百件も故意に
“ぶつかり行為”を繰り返していた男だと分かった。
僕らは警察から表彰を受け、
そのニュースは地方版の新聞にも載った。


切り抜きが学校の掲示板に貼り出されたのは、
その翌週のことだ。
それ以来、クラスの連中は面白がって囃し立てる。

「まだ付き合ってないとか嘘だろ」
「ヒーローとヒロインじゃん」
見切り発車の公認関係。

僕は顔を少し赤くして
笑って誤魔化しながら、
あの喫茶店で聞いた独白、
震えるような彼女の声だけを思い出していた。

熱を持ったまま胸に残っているのは、
新聞に載った手柄話ではなく、
僕だけが知っている彼女の真実だった。


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【連載中】走り抜くこと

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