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lahainanoon
トナカイ貝 #毎週ショートショートnote
港町の浜に、冬になるとだけ現れる貝があった。殻は二又に分かれ、遠目にはトナカイの角のように見える。そのため誰かが「トナカイ貝」と名付け、いつしか町の名物になった。十二月になると人々は浜に集まり、貝を拾っては耳に当てる。すると、波の音ではなく、かすかな鈴の音が聞こえるのだ。
その音を聞いた者は決まって言う。「そろそろ急がないと」。理由はわからない。ただ、仕事を前倒しにし、約束を詰め込み、笑顔を置き去りにして歩き出す。研究者が調べると、貝の中には尖った形の真珠が入っていた。「我慢」「努力」「今年も耐えた」という感情が凝縮されているらしい。町の人々はそれを縁起物として持ち歩いた。
やがて会話は短くなり、優しさは後回しにされ、誰もが「まだ足りない」と感じ始めた。そんな夜、浜にサンタが現れ、トナカイ貝を一つずつ拾い集めた。「善さを溜めすぎると、重くて飛べなくなる」。そう言って、貝を静かに海へ返した。
翌朝、浜から貝は消え、鈴の音も聞こえなくなった。時間が経つにつれ、足取りは自然と遅くなった。殻だけ残った貝殻を耳に当てると、聞こえるのは自分の呼吸の音だけだった。それを聞いて、人々はようやく思い出した。
善さは証明するものではなく、誰かに配られるものでもないのだと。
(530字)
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