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【夜桜系男子】 #毎週ショートショートnote
夜になると、彼は現れる。
昼間の彼を知る人は誰もいない。会社でも学校でも、そんな人はいないはずなのに、夜の公園では妙に目立つ存在だった。黒いコートに、少し長めの前髪。桜の下で静かに立っているその姿を、人は勝手に「夜桜系男子」と呼んだ。
噂は様々だった。「失恋したらしい」「幽霊らしい」「毎晩誰かを待ってるんだって」——どれもそれらしくて、どれも嘘っぽい。
ある日、僕は思い切って声をかけた。
「誰か、待ってるんですか?」
彼は少し驚いた顔をして、それからふっと笑った。
「うん。…でも、もう来ない人なんだけどね」
風が吹いて、桜がはらはらと落ちる。その中で彼は続けた。
「約束したんだよ。来年もここで会おうって。でも、その来年に、僕だけが来ちゃった」
僕は何も言えなかった。ただ隣に立って、同じように桜を見上げた。
やがて彼は小さく息を吐いて言った。
「でもさ、不思議だよね。来ないって分かってるのに、毎年来ちゃう」
そして少し間を置いて、こう付け加えた。
「…だって、もしかしたら今年の僕が来るかもしれないし」
意味が分からず、僕は振り返った。
そこに彼はいなかった。
代わりに、僕の足元に落ちていたのは、見覚えのある黒いコートのボタンだった。
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