曼殊沙華は恋をする #毎週ショートショートnote
川沿いの土手に、群れるように真っ赤な曼殊沙華が咲いていた。
その中の一本だけが、毎朝ジョギングをする女性に恋をしていた。
まるで彼女の笑顔に憧れているかのように揺れる。
「どうして人間なんかを見ているの?」と隣の花が囁く。
「私たちの花言葉を忘れたの?――『あきらめ』。どんなに想っても、結ばれない運命なのよ」
それでも小さな花は首を伸ばし、彼女の影を追い続けた。
花は知っていた。人には触れられない。話すこともできない。それでも、愛し続けることだけはできるのだと。
秋風が冷たさを増すある朝、女性がふと足を止め、花に手を伸ばす。
「小さいのに、がんばって咲いてるね」
花はその声を胸いっぱいに吸い込み、赤く艶やかな花弁を震わせた。
その瞬間、土が微かに震え、彼女の足元を絡め取った。
花は甘く囁く。
「僕の花言葉は、『再会』なんだ」
赤い花弁が吹雪のように舞い、土の香りと混ざり合う。
彼女の手がゆっくりと花に触れたまま、土の中へと吸い込まれていく。
翌日、群れの中に一本だけ、艶やかに咲く曼殊沙華が増えていた。
そして土手を歩く者は、ついその花に目を止め、無意識に微笑む。
花はただ静かに、次の「再会」を待っているのだった。
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