いとおかし作家 #毎週ショートショートnote
「これぞ雅(みやび)!」
そう言って、彼はどや顔で万年筆を走らせた。
流行作家・藤村雅彦(ふじむらまさひこ)は、古文ブームを狙っていた。
令和の若者に『いとおかし』を再ブームに――そんな下心で始めた“平安風小説”が、なぜかSNSで大バズりしたのだ。
ファンたちは口々に「尊い!」「いと萌ゆる!」とコメントし、出版社も浮かれて増版。
雅彦は調子に乗った。
次回作のタイトルは、『いとやばし』。
「古文と若者言葉の融合だ!」と胸を張り、取材でこう語った。
「言葉は進化するものですからね。いとおかしの精神を現代に――」
だが、発売日に書店をまわると、どの棚にも本が見当たらない。
嫌な予感。店員に尋ねると、申し訳なさそうに言われた。
「藤村先生の本、『いとおかし作家』ってタイトルで並んでますよ」
見ると平安風装丁の棚に、堂々と一冊。
表紙には大きく筆文字で――
『いとおかし 作家・藤村雅彦』
どうやら、印刷所が題名の意味を“形容+著者名”と勘違いしたらしい。
SNSではすでにトレンド入り。
#いとおかし作家 #タイトル天才か
苦笑しながら彼はつぶやいた。
「……いと恥ずかし、だな。」
(478字)
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