ナンパ細胞 #毎週ショートショートnote
胸の奥に「ナンパ細胞」が住み着いたらしい。
医者は真顔で言った。
「恋のきっかけに反応する特殊な感情細胞です」
「そんなのあるわけ…」と思っていたが、すぐ効果は現れた。
信号待ちで隣の女性に──
「こんにちは」
(あれ?なんで俺、しゃべってる?)
本屋で同じ本を取った女性に──
「それ面白いですよ。読んだんですか?」
「い、いや…これから…」
そしてある日、カフェ。隣に座った彼女に細胞が大暴れ。
彼女はノートPCを開き、真剣な顔で文字を打っていた。
「それ、仕事ですか?」
「ええ、でももうすぐ終わります」
「じゃあ、終わったら話しません?」
「ふふ、ずいぶん積極的ですね」
それから何度も偶然を装って会った。
「また会いましたね」
「偶然です」
「ほんとに?」
「……半分くらいは」
やがて彼女の方からも──
「今日は来ないかと思いました」
「来ない理由あります?」
「……ないですね」
半年後、同じ席で。
「俺と付き合ってください」
「はい」
その瞬間、胸の奥の細胞が静かになった。
使命を果たしたのだろう。
……でも今は、別の細胞が暴れ出している。
たぶんこれは──幸せ細胞だ。
(463字)
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