女かタイ風 #毎週ショートショートnote
「今日のランチ、女(おんな)かタイ風、どっちにする?」
彼女が言ったその一言に、俺は固まった。
――女か?タイ風?
耳を疑った。カフェのメニューを見ても、そんな項目はない。
「……えっと、それって、どういう意味?」
「え?女かタイ風って書いてあるよ?」
指さされた黒板を見ると、確かにチョークで大きく書かれていた。
『本日のカレー:女(おんな)かタイ風』
店主に聞くと、にこにこと説明してくれた。
「“女(おなご)カレー”はうちのオリジナルでね。北海道の野菜とミルクで作る、まろやかで優しい味。
“タイ風”はスパイス効かせた刺激系。恋と一緒ですな」
なるほど。優しさか、刺激か。
彼女は少し考えて、にっこり言った。
「私はタイ風にする。たまには刺激が欲しいし」
俺はつられて、「じゃあ俺は女で」と言ってしまった。
運ばれてきたカレーは、どちらも湯気の中に物語を持っていた。
タイ風の赤いソースを口にした彼女の唇は、少し艶を増して見えた。
一方、俺のまろやかなカレーは、まるで彼女を包み込むような甘い香り。
食後、彼女が笑った。
「結局、私たちってちょうどいいね。刺激と優しさで」
その瞬間、外の風鈴がチリンと鳴った。
――今日の風は、どこかタイ風(たいふう)だった。
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