【ちょっと昔の世界一周】 #36 《新しい世界へ》
本来であれば観光をしたいところだったが、出歩く気もおきなかった。
そんなギリシャでの滞在中に何をしたかというと、今後の旅の予定を決めていた。
次に世界一周航空券を使ってのフライトはトルコのイスタンブール発。
予定ではイスタンブールを出発し、トルコの観光地を周って再びイスタンブールから飛ぶ。
日程的にはなんとかなるが、ギリシャでの滞在がなくなった分ゆったりと見て周るのも悪くない。
そう思って荷物の中に入れていた世界地図を眺める。
すると、なぜか無性に気になる場所が目に入った。
ペトラ遺跡
文字だけだが、世界遺産が数個書かれている地図の中でその場所に目を奪われた。
理由を説明しろと言われたところで、できるわけではない。
しかし、行ってみたい!という気持ちで頭の中がいっぱいになった。
調べてみると、トルコからペトラ遺跡のあるヨルダンまでは手持ちの航空券の変更範囲内で行ける。
これはペトラに行けということか...
どこからともなく聞こえてきた声に導かれ、その時私はヨルダン行きを決めた。
そうはいっても元々はトルコ〜エジプトで予約していた航空券。
考えた結果は、トルコ〜ヨルダン〜エジプトでも行けるはず。
しかし変更手続きはどうすればいいか分からない。
困った時は航空券を買った旅行会社が連絡をしてもらって大丈夫と言っていたことを思い出し、連絡先を探してみる。
無事に番号は見つけたが、時差を考えると営業時間は過ぎている。
トルコ行きの電車の出発時間までは余裕があるから明日にしよう...
そんなことを考えながら過ごしたギリシャ最後の夜。
翌日、朝食を兼ねての外出の流れで旅行会社へ電話をかける。
電話といっても、それなりに料金がかかってしまうので、トルコからヨルダン経由でエジプトへ行くにはどこで変更すればいいのか。という質問をピンポイントでして、詳細はメールで送ってほしいと伝えることを決めていた。
思いのほか話はスムーズに進み、トルコに着いたら予定の航空会社のオフィスで変更・追加で飛行機の予約をすれば大丈夫です。とあっさりと回答をもらい電話を終えた。
英語での対応になると思うが、ここまでくればなんとかなるであろう。
そんな気持ちで宿へと戻り、ギリシャ出発の準備を整えた。
*****
荷物を持ち駅へと足を進める。
前日のインフォメーションを見ることなく進み、トルコ行きの夜行列車が出発するテッサロニキという街までの電車に乗り込む。
問題なくテッサロニキに到着し準備を整え、イスタンブール行きの列車を待つ。
もしもギリシャにもっといることにしたら、どんな体験をしただろう。
いや、こうなったことで体験できることもあるだろう。
そんな気持ちでホームをぶらついていると、同じようにバックパックを背負っている一人の女性が目に入った。
日に焼けて真っ黒に焼けた肌。
顔を見るとアジア人のようだが、日本人のようにも見えるし東南アジア系の雰囲気もある。
声をかけようかな...と思ったが、乗車時間が近づいたこともあり別の旅行者が彼女の後ろに並んだ。
まぁいいか...と思い、列車のドアが開くまで数少ないギリシャでの空気を満喫していると(あくまで自分のせいなのだが)アナウンスが流れドアが開く。
そこまで並んでいなかったのですぐに乗車し、チケットに書かれた席(部屋)を探す。
入ってすぐに乗務員の人がいたこともあり、指を差す方向へと進むとすぐに見つかったが、隣の部屋の前には先程の女性が立っている。
ここは一言かけておくか。と思ったものの後ろから声がかかる
「Hey,,,It's my room...Sorry...」
振り返ると大きなバックパックを背負った青年が立っていた。
どうやら同じ部屋のようだ。
私もです...とチケットを見せ合い部屋へと入る。
部屋の中は二人がけのシートがあり、その横にはハシゴが付いている。
ハシゴを登った先、シートの上はベッドになっている。
同室の青年はチケットを確認し、自分は下であなた(私)は上だねと教えてくれる。
私としてはベッドがあるからいいが、彼はないのか?と思っていたら、慣れた手つきでシートを倒しあっという間にベッドができあがった。
ソファベッドの仕組みだったらしく、上にマットレス等があるはずだから取ってくれる?と言われ、ハシゴを登ると確かに二組置いてある。
寝具一式を渡し、ついでに自分の荷物を上げてもらいひとまず一息つく。
すると、そこまで厚みのない壁越しに隣の部屋から女性の声が聞こえてきた。
「あっ、もしかして日本人ですか!よかった〜」
「私もよかった〜!どんな人が来るかドキドキしながら待ってたんだよね!」
どうやら、何度か見かけていた女性は日本人だったようで、そこに日本人の女性が乗ってきたようだ。
アジアを離れてから日本人を見かけることはあったが、話をすることはなかった。
せっかくなら話しかけとけばよかった...と思ったが、まぁ移動時間はまだまだあるし会うこともあるだろうと気持ちを切り替え、ゴロゴロしながら発車時間を待った。
*****
乗り心地(寝心地)は決していいとはいえないが、三日前の船の疲れが抜けきっていないのか、それともアテネでのドタバタの影響かは分からないが、夜行列車が動き出してからあっという間に眠っていたようだ。
列車が止まった感覚はあり、カーテン越しに窓から明かりが漏れている。
廊下をドタドタ歩く音が聞こえる。
どこかに停まって新しく人が乗ってきたかな?と思いつつもうひと眠りしようと思っていると、隣の部屋から声が聞こえる。
「Passport please !!!」
そういえば、チケットの購入時に言われていたことを思い出す。
「夜中に国境を越えるけど、席で出入国できるからね」
チケット売り場のおじさんが教えてくれていた。
イタリアからギリシャはEU圏なのでパスポートチェックはなかったが、トルコは別。
枕の下に置いていた貴重品入れからパスポートを取り出す。
タイミングよくドアがノックされ、制服をビシッと着た二人組が入ってくる。
パスポートを渡すと、出国・入国スタンプを押してすぐに戻ってくる。
夜中に起こされることを除いてとても楽でいい。
二人が出て行くと再び私は眠りについた。
翌朝、目を覚ますと窓から光が差し込んでいる。
トイレに行くついでに廊下に出ると、廊下の窓の外にはなんとも落ち着く景色が流れている。
用を済ませ部屋に入ろうと思ったが、せっかくなら景色でも見るかと思い窓辺に寄りかかっていると隣の部屋のドアが開く。
昨日見かけた人ではない女性が出てきた。
多分、あの話し声の時に後から入ってきた人だろう。
「おはようございます!」
声をかけると、驚きながらも挨拶を返してくれた。
「日本人の人とこんなに会えるなんて思わなかった〜」
そう言って景色を眺めながら少し話をした。
彼女は新婚旅行で夫婦二人旅の途中。
列車の席を取る際に、男女別の部屋ということで旦那さんは別の部屋になったらしい。
偶然にも自分は日本人と同じ部屋になってラッキーで旦那さんはというと、無口な旅行者と同部屋で暇を持て余しているらしい。
日程的にトルコに着いてからはバタバタするんだよね〜。といった話を聞き、こちらも世界一周中だがアテネでの一騒動で今ここにいることを伝える。
話をしているとあっという間に時間が過ぎていく。
お互いに荷物をまとめに部屋に戻り、気がつけば旦那さん・彼女の同部屋でホームで見かけていた女性と一緒に列車を降りる。
新婚旅行中の二人はすでに宿を予約しているようで、どうせなら一緒に行って部屋が空いてるか聞いてみる?と言ってくれた。
ありがたい提案なのだが、私にはイスタンブールで泊まってみたい宿があった。
なので、もし泊まれなかったら行ってみます。と伝え、宿の名前と住所を教えてもらう。
もう一人の女性はというと、彼女も宿のあてがあるようで奥さんの方と話しながら駅の外へ出て行く。
ほんのわずかの時間だが、こうやって出会えたのも旅の縁といえるだろう。
お互いに無事を祈りつつ声をかけ合う。
「いい旅を!」
そう言ってそれぞれの進む道へと足を進める。
さぁ、新しい世界が始まって行く。
トルコは私にどんなことを経験させてくれるだろう。
