【ちょっと昔の世界一周】 #30 《行き当たりばったり》
暑い日差しの中、バックパックについている時計に目をやる。
気がつけばバスを降りてもう2時間は過ぎている。
私は宿を探し、人混みの中を歩き続けていた。
*****
ボローニャを出発した私の次の目的地は【サンマリノ共和国】
正直なところ、なんとなく名前を聞いたことがあるなぁ...といった場所だった。
それが、偶然にもボローニャの話を聞いた日に仕事で会った別の方が、直前までサンマリノの観光局の人とイベントで話をしてきたということもあり、何かの縁かと思い行ってみることにした。
特に事前に調べたわけではないが、イタリアの中にある【国家】ということは分かった。
国家とはいえパスポートチェック等があるわけではなく、イタリア旅行の流れでそのまま訪問することができるということもあり、軽い気持ちで行くことを決めた。
サンマリノへ行くには最寄の街【リミニ】からバスに乗る。
ひとまずリミニ行きの電車を調べると、ボローニャからは特急から普通まで何本も出ている。
サンマリノは都市国家ということもあり、それほど広くないし観光地ということもあり、宿探しは困らなさそう。
ならば、急いで行かなくてもいいだろう。
そう決めて、時間はかかるが普通列車のチケットを買う。
アジアとは違い、イタリアに来てからは電車移動が中心になっている。
バスの旅とは違い、時間もきっちり(決してアジア・ヨーロッパの違いではない…と思うが)している。
予定通りにリミニに到着し、これもいつもの流れでインフォメーションでサンマリノへのバスを聞いてみる。
駅前から出ているようで、特に迷うこともなくバス停でバスを待つ。
時刻表通りにやってくるバスに感心しつつ、待ち時間や移動中に眺める景色から想像するに、リミニという街はなかなかいい雰囲気を感じる。
サンマリノ訪問後は一度リミニに戻り、すぐにローマへ向かう予定だったのだが、『せっかくならリミニも見てみようかな』
そんなことを考えながら、私の乗ったバスはサンマリノへと向かって行った。
*****
バスが止まり乗客が降りていく。
私のようなバックパッカーは他に二人ほどいたのだが、基本はいかにもバカンスに来ました〜という雰囲気の観光客ばかり。
サンマリノ自体がそういった観光客からの収入が大事な国ということもあり、当然といえば当然なのだが、イタリア・特にミラノで身なりの違いというものに敏感になっていた私にとって何ともいえない予感がした。
そうはいっても何事も行ってみなければ分からない。
バカンス観光客の流れにのって、標識を頼りに街中へと進んでいく。

少し進んで気づいたのだが、私以外のバックパッカーたちがいない。
街中へは一本道のようなのでどうしたのだろう?と思っていると、私たちが進んでいる上りの道とは違ってバス停からまっすぐと伸びている道を歩いている。
『あっちにも宿があるのかな?』
そんなことを考えながら、私は私で進んでいく。
いかにもヨーロッパ!という城門をくぐった私の目に入ってきた光景は、これもいかにもヨーロッパ!と言いたくなる街並みだった。
石畳の道は観光客で賑わっている。
通りの両側はいかにも観光地といった土産物やが並んでいる。
これまでの旅の中で最も観光地らしい場所に来た。
観光地特有の何だかテンションが上がる感覚になったものの、まずは宿探しだ。
近くにあった観光用の地図を見て【i】(ツーリストインフォメーション)の表示を見つける。
人混みを掻き分けながら進んでいくと、周囲に比べ少しだけ人の少ない建物にたどり着く。
サンマリノは観光地ということもあり、ここを訪れる旅行者は事前にそれなりに情報を手にしてくるのだろう。
その影響かインフォメーションは閑古鳥が鳴いている。
今日はとてもいい天気ということもあり、建物の中に入っただけで一息つける。
人がいないこともあり、すぐに案内され宿を聞く。
『これならすぐに話もつくし、もう少し休んでから行こうかな?』
そんな気持ちで話し始めたが、すぐに暗雲が立ち込めた。
紹介された宿が全て高い!!
高いというよりも高すぎる…
ただでさえイタリアに来て物価の違いを痛感はしていたが、それでも何とかやってきた。
だが、今目の前に書かれている宿の金額はミラノ の倍近くやそれ以上。
インフォメーションの人たちも、私の事情を察してくれて少しでも安い宿を探してくれるが、安い(それでもミラノ 以上)宿は埋まっているようだ。
唯一、可能性があるのは街中から少し離れたユースホステル。
ユースホステルという存在は知っていたのだが、(一般的に)ドミトリーということもあり、英語が喋れない私としてはなかなか気が進んでいなかった。
だがこうなってはしょうがない。
今の自分なら何とかなるだろう。
という根拠のない自身のもと、ユースホステルへと向かって行った。
*****
とても気持ちの良い青空の下、街中から少し歩く。
教えてもらった道はよくよく考えると、バス停からあのバックパッカーたちが歩いていた道だ。
『彼らは分かってたんだろうなぁ〜』
行き当たりばったりでは困る時がある。
そんなことを考えながら、歩を進める。
そうすると【Hostel】の看板が見えてきた。
入口の前に立ち、行くぞ!と自分に気合を入れてドアを開ける。
ここまではよかった。
結果、、、
安いドミトリーは満室、、、
個室は空いているが、値段は街中と大差がない、、、
、、、、、
呆然とする私の横を見たことのある旅行者が通り抜けていく。
先ほど同じバスで来た旅行者だ。
彼が出てきた方はドミトリーのはず。
わずかな差で埋まってしまったようだ。
「OK…Thank you…」
スタッフに力無く挨拶をし先ほど歩いてきた道を再び歩き出す。
心なしか日差しは先ほどよりも強く感じる。

サンマリノの街中に戻った頃には、バスを降り2時間が過ぎていた。
*****
『どうしたものか…』
こうなると再びインフォメーションを頼ろうとは思ったのだが、途中にある宿に声をかけながら行ってみようという気持ちになっていた。
結果は想像通り聞いていた値段、もしくは満杯。
バカンスの時期と重なっていたこともあり、どこも空きがないようだった。
肩を落としながらインフォメーションに戻る。
荷物を背負ったままの私の姿ですぐに状況は伝わったようだ。
こっちだよ。と椅子を引いてくれる。
私が腰を下ろすとカウンターの奥で電話をしていた男性が電話を切り、こちらへ歩いてきた。
「I found the Hotel !!」(宿を見つけたよ!)
そういって手にした紙を見せてくれる。
そこに書かれていた数字はミラノでの宿代と同じ。
思わず「えっ?」と日本語で言ってしまう。
OK?と聞かれ、場所を聞くとすぐそこだと言う。
首を縦にふりOK!と答えると、ついて来い!と歩き始める。
目的地はインフォメーションから本当にすぐだった。
しかし、着いたものの目の前にある建物はどう見てもレストラン。
建物前の道にはテーブルと椅子が並んでいる。
どういうことか分かっていない私をよそに、レストランから店の主人と女将さんだろうか、夫婦といった雰囲気の二人が出てくる。
案内してくれた男性と話し、私の方を向く。
三人の説明をまとめると、本来はレストランなのだが地元(イタリア)の人が来た際に部屋を貸し出しているらしい。
一般的な観光客用ではないが、宿泊施設だから問題ないよ。とのこと。
確かにレストランの入口の横にあるドアの脇に【Room】の文字と金額が書かれている。
ホテルではなく民宿のようなものだろう。
インフォメーションとしては普通の旅行者には案内しないのだが、私のような旅人をたまに案内するらしい。
部屋を見せてもらうが何も問題はない。
むしろ住みやすそうな部屋である。
案内してくれた男性にお礼を言い、チェックインを済ます。
荷物を下ろしベットに横になる。
バックパックに下げた時計を見ると、バスを降りて3時間は過ぎている。
「疲れた〜」
思わず声が漏れる。
行き当たりばったりの旅ではこういったことがあることを肝に銘じ、これからは準備は必要だな。と自分に言い聞かせる。
とはいえ何とかなってよかった…
そう思い窓の外に目をやる。

目の前には立派な教会といった建物と観光客。
どうやら観光スポットが見れる部屋のようだ。
『行き当たりばったりもいいもんだな…』
先ほどのことなどをすっかり忘れる私がいた。
