経済書(12):Power and Progress 技術革新と不平等の1000年史
昨年、経済誌でベスト経済書として選ばれ、多くの新聞・雑誌でも紹介されていた「技術革新と不平等の1000年史」をようやく読み終えました。
技術革新と不平等の1000年史
本書はトルコ出身の経済学者ダロン・アセモグル氏とイギリス出身のサイモン・ジョンソン氏による共著。過去の経済発展の歴史から得られた知見を基に、制度経済学(政治経済学)の視点から、現代社会に対する問題提議を行っています。
2024年10月に発表されたノーベル経済学賞では2氏とともに米シカゴ大学のジェイムズ・ロビンソン教授が受賞されています。
本書は単行本だと300頁の上下巻2冊。私はKindleで読んだので、厚さは気になりませんでしたが、経済書としても大作ですね。
上下巻の内容(目次)は以下のとおりです。
技術革新と不平等の1000年史【目次】
〈上巻〉
〇プロローグ——進歩とは何か
〇第1章 テクノロジーを支配する
〇第2章 運河のビジョン
〇第3章 説得する力
〇第4章 不幸の種を育てる
〇第5章 中流層の革命
〇第6章 進歩の犠牲者
〈下巻〉
〇第7章 争い多き道
〇第8章 デジタル・ダメージ
〇第9章 人工闘争
〇第10章 民主主義の崩壊
〇第11章 テクノロジーの方向転換
上巻は農耕時代の農産物収穫技術からスエズ・パナマ両運河建設、産業革命時代の自動織機など歴史的に技術革新と呼ばれた代表的なテクノロジーを取り上げ、実際にその作業に携わっていた民衆の暮らしは良くなっていたのか、一つ一つ取り上げていきます。
下巻では現代社会にも深く関係するデジタル・テクノロジーやAI(人工知能)をテーマとして取り上げ、現代社会では不平等はなくなっているのか、さらに格差が拡がっているのではないか?、それを防ぐために政治や制度に何が必要かを具体的プランとして提案しています
余談ですが、個人的には原著では副題だった「技術革新。。。」と少し長ったらしい書籍タイトルよりも、技術革新が人々に幸せをもたらす起爆剤となるには様々な権力側の動き、パワー・バランスを注視しなければならない。そのことを端的に表わす原題の「権力と進化」の方が広く日本人の手に取りやすかった気がするのですが、どうでしょうか?
生産性バンドワゴン
さて、本書では「技術革新が進展し、生産性が向上すれば、その恩恵は生産従事者にも及び、ひいては民衆全体の生活も向上するはず」という考え方(妄信)を「生産性バンドワゴン」と呼んでいます。
経済学ではトリクルダウン効果「裕福な人がより裕福になれば、その分、富が貧しい人にも富が滴り落ちる」という理論がありますが、そこに技術革新や生産性の概念を取り入れたところが新しいかもしれません。
一方、本書では過去の歴史を紐解いていけば、技術革新によって生産性が上昇しても利益を受けるのは常にエリート層であって、現場の労働者まで恩恵が拡がることはほとんどなかったという主張が立証されています。
私はなるほどな。そうだよな。と本書を読み終えたのですが、本書の主張やデータ的裏付けに対して、すでに米国の経済ジャーナリストが疑問を投げかけているのも興味深いところです。ただし、それでもなお、両氏の研究業績や現在社会に対する問題提議はほぼ当たっているのではないでしょうか?
テクノ・リバタリアン批判
また、両氏の主張、特に後半に書かれている問題提議と現代社会への提言の根底にはデジタル・テクノロジー社会における「テクノ・リバタリアン」への批判があると考えられます。
テクノ・リバタリアンの思想は1990年代のシリコンバレーで生まれ、その後、ピーター・テールやイーロン・マスク、GAFAなどのハイテク産業の起業家・富裕層の間で広まっていったとされています。
彼らはこれからの経済成長のためには既得権益を守る社会ではなく、起業家精神を育み、邪魔をしない社会 「究極の自由」が約束された社会が必要だ。それは既存の国家も民主主義も超越した数学的に正しい社会統治であり、「ハイテク自由至上主義者」とも呼ばれています。
確かにいまの米国政治(トランプ大統領=イーロン・マスク政府効率化省(DOGE))の矢継ぎ早の政策を見ていると、民意を大切にするリベラリズムでも、共同体主義的な保守主義でもない、ポリティカル・コレクティブネスも政府規制も必要としない功利主義に見えてきますよね。
それを防ぐにはどうすれば良いかのヒントが本書(Power and Progress)の最終章にいくつか書かれています。その点でも今日的な経済書だと思います。

テクノ・リバタリアンについて詳しく知りたい方は、橘玲氏のよる新書をぜひ読んでみてください。
国家はなぜ衰退するのか
最後に著者のアセモグル氏と前述のノーベル経済学賞受賞3人目のジェイムズ・ロビンソン氏は10年近くまえに『国家はなぜ衰退するのか』を、その後『自由の命運』という書籍を共著で出されています。
後者はまだ読んでいませんが、前著については以前の私のNoteで、参考書籍として載せていますので、合わせてご紹介しておきます。
