【イベントレポート】真田純子×湯澤規子「世界は“まかない”でできている」『地球のまかないごはん』(農山漁村文化協会)刊行記念
農文協noteでもおなじみ、『地球のまかないごはん』(農文協)の著者・真田純子さんと湯澤規子さんによる、刊行記念トークイベントが4/16(木)に本屋B&Bで開催されました。

世界中でそこにしかない石積みや、その土地ならではの豊かな食の風景を通じて、地球と人間が互いを「まかない合う」持続可能な関係性を、二人の研究者が手紙形式で温かく紐解く本書。その往復書簡のきっかけとなった渋谷「d47 MUSEUM」でのイベントから1年半ぶりとなる対談です。今回はその模様をイベントレポートとして少しだけお届けします。
石積みは地球と人間がまかない合うダイナミックな営み
まずは景観工学者の真田純子先生から。
徳島に住んでいたころ、地元の産直市で買える食材だけで毎日の食事をまかなっていたという真田さん。研究対象にしている石積みもまた、その土地にある石だけを使って、その土地に合うように積んでいく営みだと言います。

面白かったのは、イタリアのアルプス地方の石積みについて。この地域の石は層状に割れる特徴を持っていて、平べったい石を積み上げて自在にさまざまな建造物がつくられています。

つづけて何枚か同じような石積みの写真が映し出されたのですが、途中で「これはどこの石積みだと思いますか?」と問う真田さん。
「イタリア……じゃないですね。日本?」と応答する湯澤規子先生に、「そうです! 愛媛県・佐田岬の集落の石積みです。よくわかりましたね」と真田さんはにっこり。
ここ佐田岬でも、同じように層状に割れる石がとれるため、アルプス地方と文化的な交流はないにもかかわらず、そっくりな積み方になるのだそうです。
アルプス地方ではブドウ棚の支柱を立てるために、石積みの上部に穴の開いた石を突き出して積んでいますが、佐田岬の集落でも別の目的のために全く同じ方法がとられており、遠い異国の地との技法の一致に思わず唸ってしまいました。


人がその土地にあるものでまかなおうとするとき、海を越えて同じ発想が生まれるということ。そんな、地球と人間がまかない合うダイナミックな関係にゾクゾクしてしまいます。
決まり文句(Cliché)からこぼれ落ちるもの
続いて、歴史地理学者の湯澤規子先生。
1年間のサバティカル(研究休暇)を利用して、世界中の食や暮らしを調査して回った湯澤さん。アカデミックな場で繰り返し使われる、環境・食料・生産・消費といった判を押したような言葉から自由になりたかったそうです。
印象的だったのは、初めて訪れたアフリカ大陸、南アフリカのハマクヤという地域でのこと。湯澤さんがある女性に「人生で一番嬉しかったことはなに?」と聞いたところ、「それは、マソンジャ(食用イモムシ)がめっちゃ採れたときだ」と答え、おもむろに歌いだしたんだそうで、その様子を動画で見せてくれました。そこには、オリジナルの歌とダンスで「マソンジャ」がたくさん採れた喜びを表現する女性の楽しそうな姿がありました。

最近“くらし唄”に注目しているという湯澤さん。くらし唄が持つあそびやリズムには、生産や消費といった言葉からはこぼれてしまう、「まかない」の要素が内包されているのでは、と感じているそうです。
主体性をもってまかなうということ
それぞれのお話に続いて、いよいよ対談へ。
話題はまず、「まかない」というキーワードについて。真田さんはこの往復書簡を交わす中で、「まかなう」ためにはある程度の技術・リテラシーが必要だと気がついたと言います。「まかなう」というと、あるもので適当に済ませる、というようにも聞こえますが、例えば料理に「焼く・煮る・蒸す」などの基本となる調理法があるように、基本となる技術を持っていなければ主体性をもってまかなうことはできない、と感じたそうです。
地球と人間がまかない合う関係を築くには、人間の側もまた主体性を手放さないことが大切、ということでしょうか。お話を聞いていて、例えば最近のAIの急速な進化と、それが地球環境や人間そのものに与える影響について、私たち人間はどこまで主体的になれているか、といったようなことが思考のタネとして浮かんできます。

規格外を出さない世界は存在しうるか
湯澤さんは、すぐに専門家まかせにせず自分の手でまかなうためには、石や食材など目の前の素材への信頼感が大切だと言います。以前、結城紬の調査をしていたときのこと、自分で糸を紡いでみたら、それはそれはボコボコの不格好な糸になったそう。それを見た職人が「これは帯に使えるから大丈夫」と言うのを聞いて、規格外を出さない職人の世界に驚いたんだそうです。
石積みも同じで、石積みに良さそうな「立派な石」ばかりだと積みにくい、と真田さん。積みやすい石、積みにくい石はあるが、色んな形の石がそれぞれに役目をもっていて、多様な石があってこそ積めるのだそう。規格とは、社会を効率よく回していくために人間がつくったルールですが、そこから外れるものを必然的に作り出してしまうという点で、まかない合う世界とは相容れないものなのかも…と感じました。
お好み焼きはお好みか?
その後も、研究対象に「人」という視点を入れるようになったきっかけや、「まかなう」から「まかない合う」という言葉へと深まっていった思考の変化など、会場からの質問も交えつつ、話は尽きることがありません。
最後に、土着の食べ物(ソウルフード)の話になったとき、湯澤さんがあげたのが「お好み焼き」でした。実は、それぞれ広島と大阪生まれの2人。これはもしや、息ぴったりのコンビがお好み焼きをめぐって論争か!と下世話な期待を膨らませたのですが…。「お好み焼きは本来、その時にある食材を使ってきた、まさにまかないの料理。もっと“お好み”であるべき」と湯澤さん。なんと、1枚のお好み焼きの上にも、まかないの世界が広がっていたのです。
地球と人間がまかない合う関係を未来に拓く
遠い異国の地や、日本の中山間地域の風景、それらと決して無関係ではない自分たちの食や暮らし。どうすれば人間本位の考え方から脱して、持続可能なものにしていけるのか。考えるためのヒントとして今回のイベントで提示されたのが「まかなう」というキーワードでした。与えられた条件や制約の中で、わたしたちはいかに生きていけばよいのか。ともに就職氷河期世代である真田さん・湯澤さんが石積みや食の研究を通して指し示す先は、成長や拡大路線ではなく、地球と人間がまかない合う関係です。
それは理想や空論ではなく、地球上のいろんな場所で土地に根差して実践している人たちがたくさんいる「現実」であることを、今回のイベントで紹介してくれました。頭で考えるのでなく、日々現場でつぶさにみてきているおふたりの言葉だからこそ、励まされ背中を押される、そんな未来に開かれたイベントだったと感じています。
イベントのアーカイブ動画は、7/18(土)まで販売しています。
詳しくは以下よりご確認ください。


『地球のまかないごはん』真田純子・湯澤規子 著
定価 1,760円(税込)
判型/頁数 四六判 224ページ
ISBNコード 9784540251245
購入はこちら https://toretate.nbkbooks.com/9784540251245/
