【第52回】防災キャンプのすすめ―楽しみながら備える
このシリーズの原点に立ち返る
このシリーズの第1回で、私たちは「守りの防災」から「暮らしの防災」へ、という発想の転換を提案しました。
ここまでPart8を通じて、家族での訓練、地域の自主防災組織と、実践的な備えを積み重ねてきましたが、今回はその集大成として、文字通り「アウトドアと防災を融合させた取り組み」である防災キャンプを紹介します。
防災キャンプとは何か?
防災キャンプは、文部科学省が「学校・地域を避難所と想定した防災キャンプ」として、体験活動推進プロジェクトの一環で実施してきた取り組みです。
学校や地域施設を実際の避難所と見立て、宿泊を伴う体験を通じて防災を学ぶという、まさにこのシリーズのテーマそのものを体現する活動です。
自治体レベルでも、こうした取り組みは各地に広がっています。
1泊2泊のキャンプに親子で参加する形式の防災キャンプが、兵庫県神戸市をはじめ各地で毎年実施されています。
なぜ「楽しみながら学ぶ」ことが重要なのか?
防災教育の現場で共通して指摘されているのが、「楽しみながら学ぶ」ことの重要性です。
防災をただ学ぶのではなく、アクティビティやイベントの一つとして楽しみながら、参加者の共通体験を通して学ぶという点が、成功している取り組みに共通する特徴です。
教室で表面上の知識を見聞きするだけでは身につかず、内容が難しくなるほど参加者の興味は薄れていくという指摘もあります。
これは、Part1で解説した「知識と経験の違い」を、教育の現場からも裏付ける内容です。
実際に行われている防災キャンプの内容
各地の防災キャンプでは、このシリーズで解説してきた内容そのものが、体験プログラムとして実践されています。
避難生活の疑似体験
ある自治体の防災キャンプでは、炊き出しや、就寝の際に使用する段ボールベッド作りなどを行い、限られた環境の中で工夫しながら参加者と共に過ごす体験が組み込まれています。
Part6で解説した避難所生活の内容を、実際に体験する形です。
サバイバルスキルの習得
簡易浄水器を作成するサバイバルスキルの習得も、多くのプログラムに取り入れられています。
Part2で解説した携帯浄水器の知識を、実際に手を動かして学ぶ機会です。
ゲーム形式での知識習得
震災後に発生するさまざまなトラブルを紙芝居形式で出題し、トラブルを解決するアイテムカードを出してもらうゲーム形式のプログラムもあります。
震災時における「入手しやすさ」「使いやすさ」の観点から得点がつけられるなど、実践的な判断力を楽しみながら養う工夫がされています。
要配慮者への理解を深めるプログラム
障がいを持ち、災害時の避難に不安がある方を対象にした「要支援者避難コース」も実施されています。
起震装置で地震を体験したり、火災時に煙の中を避難する方法を学んだりする内容で、Part3で解説した要配慮者への理解を深める機会になります。
防災×アウトドアを専門に扱う団体も
近年は、まさにこのシリーズのコンセプトである「防災×アウトドア」を専門に扱う団体も活動しています。
テント設営や火起こし、非常食の準備といったアウトドアスキルを通じて、災害時に役立つ実用的な知識を習得するプログラムを、学校や地域団体、企業に向けて提供している団体もあります。
地震・洪水・台風などの自然災害に関する基本的な知識や、災害発生時の適切な行動方法もあわせて学べる内容になっています。
こうした団体では、社会人や学生などの多くのボランティアが活動を支え、メンバー同士でキャンプをしてスキルを磨きながら継続的な活動を行っている例もあり、単発のイベントで終わらせない、継続的な学びの場づくりが意識されています。
家庭で「ミニ防災キャンプ」を実践する
大規模な防災キャンプに参加する機会がなくても、家庭で似た体験を作ることは十分可能です。
このシリーズでこれまで解説してきた内容を組み合わせれば、自宅の庭やリビングで「ミニ防災キャンプ」を実践できます。
Part2で解説したテントを庭やベランダに設営し、一晩過ごしてみる
Part4で解説したパッククッキングやカセットコンロで、実際に非常食を調理して食べてみる
Part2で解説したポータブル電源とヘッドライトだけで、一晩を過ごしてみる
Part8前々回で解説したシェイクアウト訓練を、キャンプの最初に組み込む
こうした「体験する防災」は、Part7で解説した子育て家庭にとって、子どもが防災に親しむ絶好の機会にもなります。
家族ぐるみで実践することで、災害時の対応について子どもと保護者が自然に話し合うきっかけにもなります。
アウトドア趣味と防災意識を、地続きにする
このシリーズを通じて一貫して伝えてきたのは、防災を「特別な、我慢を伴う準備」としてではなく、「すでに楽しんでいる、あるいはこれから楽しみたいアウトドアの延長線上にあるもの」として捉える視点です。
防災キャンプという実践は、まさにこの発想を具体的な行動に変える機会です。
キャンプに行くたびに、少しだけ「もしこれが災害時だったら」という視点を持ち込んでみる。
使い慣れた道具の防災的な価値を再確認してみる。
それだけで、日常のアウトドア活動が、そのまま継続的な防災訓練になっていきます。
まとめ:シリーズの総括として
このシリーズは、「防災対策とアウトドア術」というテーマのもと、基礎知識からアウトドア用品の活用、住まいの対策、食と水の備蓄、実践スキル、避難生活の実際、シーン別の対策、そして地域とのつながりまで、幅広く解説してきました。
防災キャンプという実践は、これらすべての知識を「楽しみながら体で覚える」機会を提供してくれます。
「守りの防災」から「暮らしの防災」へ——この発想の転換を、ぜひ次のキャンプの機会に、少しずつ実践してみてください。
次回は、最新防災グッズ・アウトドアギアのトレンドについて解説していきます。
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