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【読書メモ】時をかけるゆとり(朝井リョウ)

noteに投稿を始めて1週間になる。書いた文章を推敲し、「もっといい表現がないだろうか」と頭を悩ませるのは、これまで何かちゃんとした文章を書いてネットにあげるという行為とは無縁だった私にとって新鮮で楽しかった。そこで「文章が上手な人はどんな風に書いているんだろう」とイッチョマエに物を書くことに興味を持った私は、「朝井リョウのエッセイが面白い。」と脳内に保存されていた一文を頼りに、amazonで次の本を購入した。

朝井リョウ。名前はもちろん知っていたし、映画化もされた「桐島、部活やめるってよ」「何者」など作品も知ってはいたが、なぜか通って来なかった。映画も見ていない。なので、おそらく少数派だと思うが、私にとって最初に朝井リョウに触れる作品がこちらのエッセイ「時をかけるゆとり」である。本作は「学生時代にやらなくてもいい20のこと」(2012年6月発売)に書き下ろしを3本追加し、改題して2014年12月に出版されたエッセイである。もう10年も前の書籍だ。

結論から言うと、もう信じられないくらいめちゃくちゃに面白かった。一瞬で作者のことが好きになった。続編の2冊のエッセイはもちろん、この人が一体どんな小説を書いたんだろうと気になり、「桐島、部活やめるってよ」からちょうど最近出た新作の「生殖記」まで一気にamazonで購入した。小説を読んで作者のエッセイに行くのが黄金パターンであろうが、逆である。さくらももこを「ちびまる子ちゃん」を通らずに「もものかんづめ」から入ることくらい難しいことである。

中身についてだが、まずタイトルにある「ゆとり」からも同世代だろうな~と思いながらプロフィールに目をやると、完全に同級生だった。紛うことなき「ゆとり世代」である。それに加え、田舎出身で大学生になったタイミングで上京、お腹が弱い、猫背、という境遇や体質も同じだったので、読んでいてどこか親近感があるというか、他人のことのように思えない不思議な感覚があった。

前述の通り元々のタイトルが「学生時代にやらなくてもいい20のこと」のため、大半が大学時代のエピソードである。同じ時代に大学生活を送った人なら誰しも「自分もそうだったな~」または「こういうやついたな~」と共感できる部分が必ずあるはずだ。読んでいてクスクス、ニヤニヤ、もしくは思わずフフッと吹き出すか、人によって度合いは様々だろうが、きっと笑えるはず。二十歳そこそこで書き上げたエッセイとは思えない完成度、天才である。

さて、冒頭の疑問「文章が上手な人はどんな風に書いているんだろう」に戻りたい。以下、朝井リョウのエッセイから学んだ文章の書き方に関する気付きである。

  • 一文が短い

    • こうすることによりテンポよくキレのある文章になっている。実際にこのエッセイもめちゃくちゃ早く読み終わった。

私は焦る。自分の体のことは自分が一番よくわかっている。この状態のまま、トイレのない世界に幽閉されるなんて絶対にいけない。だからといって周囲にトイレはない。トイレどころか何もない。どうしようか。次を逃したらバスは一時間来ない。

朝井リョウ. 時をかけるゆとり (文春文庫) (pp.11-12). 文藝春秋. Kindle 版.
  • オチを付ける

    • これは文章の書き方というよりまとまった1つのエッセイを書くときのコツかもしれない。文章の終わりに途中で出てきたキーワードなりを用いてオチを付けると、読後感が一気によくなる。逆にオチが弱かったり全くなかったりすると唐突に終わった感が出る。

日付が変わるまで様々な緊急事態を考慮し続けたネガティブ頭が「野糞をするかもしれないのでトイレットペーパーを持参する」という珍回答を叩きだすまで、私は眠れなかった。

朝井リョウ. 時をかけるゆとり (文春文庫) (pp.23-24). 文藝春秋. Kindle 版.

ちなみに、家に帰った瞬間にまとめて洗濯機に放りこんだ下着や荷物は、トイレットペーパーでぐちゃぐちゃになって洗濯ドラムから出てきた。一度も出番がなかったくせにそんな形で存在感を出してきたトイレットペーパーを見て、私は「もう知らない」とひとりごち、その日の授業を全てスッキリ休んだ。

朝井リョウ. 時をかけるゆとり (文春文庫) (pp.30-31). 文藝春秋. Kindle 版.
  • 著者のキャラクターは三枚目がいい

    • とにかく自虐が多い朝井リョウのエッセイ。本文の第一文目が「私はお腹が弱い。」である。第一章でいきなりウンコを漏らしそうしなるエピソードから入ることによって、「著者は自分より弱い存在である。」というのを読者に印象付けている。こうすることで読者は著者に親しみやすさを感じ、その後のエピソードもノーストレスで読み進めることができる。エラそうだったりカッコつけてる文章って読んでて疲れるし面白くないしね。変なプライドはもたず「自分を下げる」こと。これって書くことだけでなく初対面の人と話すときなど普段の生活でも役に立つことだと思う。

私はお腹が弱い。 文字にするとなんとも情けない一行目だが、この事実は私を語る上で大変重要な項目だ。最重要といっていい。本のカバーについている著者略歴に書き加えるべきだと思う。 (中略)
「岐阜県出身、5月生まれ。2009年に『桐島、部活やめるってよ』でデビュー。お腹が弱い」である。そうするべきである。

朝井リョウ. 時をかけるゆとり (文春文庫) (p.10). 文藝春秋. Kindle 版.

中二の時を思い出すと「ひゃっ」と顔を赤らめてしまうのは万国共通であるように思うが、私は大学一年生の時を思い出しても「ひゃっ」となる。

朝井リョウ. 時をかけるゆとり (文春文庫) (p.43). 文藝春秋. Kindle 版.
  • 積極的に笑いと取りに行く

    • やはり読んでて笑える箇所は、積極的にボケが盛り込まれた文章だ。普通に書いていては絶対に出てこない表現や言い回しを筆者のオリジナリティを交えて面白おかしく書く。著者の言葉を借りるなら、あとから読み直して「ひゃっ」となるような文章をインターネットに発信してしまうリスクも往々にしてあるが、それを繰り返すことで物書きは成長するのだと思う。(たぶん)

私はロケットスタートを切った。「えっ」「リョウ?」戸惑いを隠しきれない友人達の声を背中で受け止め、私は走った。風を切り、一点を見つめ、メロスのように走った。民家の前におじさんがいる。彼が私のセリヌンティウスだ。

朝井リョウ. 時をかけるゆとり (文春文庫) (p.12). 文藝春秋. Kindle 版.

最後に、いいなと思った文章をいくつかピックアップ。

本当に、本当に、本当に、本当に、人生諦めなければ何だってできるのだ。 だけど明日は何もできない。
世界で一番きれいな二律背反が誕生した瞬間だった。

朝井リョウ. 時をかけるゆとり (文春文庫) (p.30). 文藝春秋. Kindle 版.

就活とはきっと、形を変えて現代日本に現れた新たな通過儀礼の形なのだ。自分と社会の間にある溝を、ここで飛び越えなければならないのだ。

朝井リョウ. 時をかけるゆとり (文春文庫) (p.174). 文藝春秋. Kindle 版.

以上。次は朝井リョウの3年半ぶりの新作、「生殖記」の感想を書きます。

(追記)


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