こっちの日本昔ばなし #17 東海道中膝栗毛
弥次さんと喜多さんは、江戸から京へ旅に出た。
だが、現代の旅は昔のように気楽ではない。
まず、出発前にスマホが震えた。
《旅ログアプリ“膝栗毛ナビ”が旅程を自動生成しました
わたしの作成した工程どおりにすすんでいただきます。》
弥次さんは眉をひそめた。
「ほぼ監禁じゃねえか」
喜多さんは笑った。
「まあまあ、便利な時代ってことだろ」
東海道に出ると、道中のあちこちにカメラが設置されていた。
《旅人の安全確保のため、行動は24時間記録されます》
という看板が立っている。
二人が茶屋で休もうとすると、アプリが通知を出した。
《予定外の休憩を検知
旅程効率が低下しました》
弥次さんは叫んだ。
「旅ってのは寄り道が醍醐味だろ!」
アプリは冷たく返す。
《寄り道は“非効率行動”として減点対象です》
喜多さんは驚いた。
「減点ってなんだよ」
宿場町に着くと、宿の主人が言った。
「お客様の“旅人ポイント”が低いようで……
当館の上位プランはご利用いただけません」
喜多さんはさらに驚いた。
「ポイントってなんだよ」
「道中での“笑顔率”、“歩行速度”、“寄り道回数”などを
AIが総合評価する仕組みでして」
弥次さんはため息をついた。
「旅まで点数化される時代かよ」
翌日、二人は海沿いの道を歩きながら、
ふと昔話をした。
「昔の旅はよかったなあ。
行き当たりばったりで、失敗しても笑って済んだ」
「今は失敗したら“旅程逸脱”で罰金だからな」
そのとき、スマホが震えた。
《会話内容を解析しました
“現代社会への不満”を検知
旅の満足度が低下しています
改善のため、スタート位置へ戻ってください》
弥次さんは空を仰いだ。
「旅ってなんだろうな」
喜多さんは苦笑した。
「歩いてるのは俺たちだけど、
旅してるのはアプリのほうかもしれねえな」
その瞬間、アプリが通知を送った。
《哲学的発言を検知
旅の目的が曖昧になっています
旅程を再構築します》
画面には新しい旅程が表示された。
《目的:旅の効率化
手段:あなたたちの自由を最小化》
弥次さんと喜多さんは顔を見合わせた。
(俺たち、旅してるんじゃなくて、
旅に“管理されてる”んじゃねえか)
東海道の風は昔と同じように吹いていたが、
その旅路は、もう昔の旅ではなかった。
