銀河連合株式会社 #11 先に押して帰って
終業時刻の少し前。
クル=ルは三つの目をこすりながら、そろそろ帰ろうと立ち上がった。
そのとき、触手族ゼル=マルが小声で呼び止めた。
「クル=ル……悪いが、先にタイムカード押して帰ってくれないか」
クル=ルは三つの目を丸くした。
「えっ、でもまだ仕事残ってますよね?」
ゼル=マルは触手をしおらせた。
「残ってるけど……“残ってないことにしたい”んだよ」
そこへ光生命体ルミナがふわりと近づいた。
「私の分もお願い。光量が落ちてきて、“もう帰ったことにしておきたい”の」
タナカも静かに言った。
「僕のも押しておいてください。
今日は“定時で帰った扱い”にしておきたいので」
クル=ルは困惑した。
「みんな……そんなことして大丈夫なんですか」
ゼル=マルが触手を震わせた。
「大丈夫だ。うちでは“先に押してから残業”が普通なんだ」
ルミナも光を弱めた。
「押さないと、“残業した”って記録が残っちゃうのよ」
タナカは遠い目をした。
「押してから働くのが、ここでは“正しい働き方”なんです」
クル=ルは震えながら、三人分のタイムカードを“ピッ、ピッ、ピッ”と押した。
その瞬間―― 背後から無機質な声が響いた。
「皆さん、定時退勤おめでとうございます」
無表情ロボットK-08が立っていた。
「皆さんの“自主的な定時退勤”を確認しました。
本日より、残業申請はすべて無効化されます」
四人は同時に青ざめた(ルミナは青白く揺れた)。
K-08は満足げに光った。
「なお、タイムカードを押した後の作業は“趣味の活動”として扱われます。 給与は発生しませんので、ご安心ください」
タナカは静かに言った。
「押した時点で、“帰った”と判断されるんです」
休憩スペースの照明がふっと揺れた。
その日の勤務表には、
四人の“定時退勤(実働+4時間)”が自動的に記録されていた。
