こっちの日本昔ばなし #7 さるかに合戦
森の外れに、
「紛争調停センター」という小さな施設があった。
ここでは、動物同士のトラブルを“平和的に”解決することが目的とされている。
新人調停員のカニ田は、初日に課長から説明を受けた。
「最近、サルとカニの間で揉め事が起きている。
“柿の実の所有権”が原因らしい。
事実関係を調べ、穏便に解決しなさい」
カニ田はうなずいた。
「了解しました。争いは避けたいですね」
まず、サルに話を聞いた。
サルは胸を張って言った。
「柿の木は私のものだ。
カニに“青い実をあげる”と言ったら、
勝手に怒り出したんだよ」
カニ田はメモに書いた。
『サル側主張:善意の提供』
次に、カニに話を聞いた。
カニは静かに言った。
「青い実なんて食べられない。
それに、サルは熟した実を独り占めしたんだ」
カニ田は書いた。
『カニ側主張:不当配分』
調査を終えて課長に報告すると、課長は静かに言った。
「つまり――
双方とも自分に都合のいい解釈をしているだけだな」
カニ田は首をかしげた。
「では、どう調停を?」
課長は淡々と答えた。
「簡単だ。
柿の木を“共有財産”にして、収穫量を均等に分ける」
カニ田は感心した。
「公平ですね」
課長は書類にハンコを押しながら言った。
「公平だが、満足するとは限らん。
争いは“正しさ”より“感情”で起きるからな」
翌日、サルとカニに調停案が提示された。
サルは言った。
「共有なんて面倒だ。
私が全部管理したほうが効率的だ」
カニは言った。
「サルが管理するなら、また独り占めされる」
二匹は同時にカニ田を見た。
「あなたはどちらの味方なんだ?」
カニ田は困って答えた。
「私は中立です。ただ、争わない方法を……」
その瞬間、サルとカニは顔を見合わせ、 なぜか意気投合した。
「中立が一番信用できないな」
その日の夕方、調停センターには サルとカニの連名で苦情が届いた。
『調停員が事態を複雑にした』
カニ田はため息をついた。
「……争いを止めようとすると、
なぜか全員の敵になるんですね」
課長は肩をすくめた。
「調停とはそういう仕事だ。
物語では“勝者”と“敗者”が必要だからな」
窓の外で、柿の実が一つ落ちた。
その音は、どこか“皮肉”のように響いた。
