こっちの日本昔ばなし #11 たけくらべ
中学生のミドリは、最近どうも落ち着かない。
学校で「比較指導強化月間」が始まったのだ。
廊下には巨大な掲示板が設置され、
《学力》《運動》《SNS発信力》《友達数》《将来性》
などの項目が、クラス全員分ランキングされている。
先生は言った。
「競争は成長の源です。みんなで高め合いましょう」
ミドリはため息をついた。
「高め合うっていうより、比べ合って疲れるだけなんだけど」
放課後、幼なじみの長吉が声をかけてきた。
「お前、SNS発信力の順位、急に上がったな」
「昨日、猫の動画がバズっただけだよ」
二人は笑ったが、心のどこかにモヤモヤが残った。
昔はただ一緒に帰るだけで楽しかったのに、
今は“どちらが上か”が、常に空気の中に漂っている。
翌週、学校はさらに新しい制度を導入した。
《相性スコア》
生徒同士の関係性を数値化し、相性の良い相手を自動で推薦するという。
ミドリと長吉のスコアは「42」。
微妙な数字だった。
長吉は苦笑した。
「俺たち、相性悪いらしいぞ」
「そんなの、誰が決めたのよ」
その日の帰り道、ミドリは言った。
「ねえ、もしスコアが90とかだったら、どうしてた?」
「たぶん、今と同じように一緒に帰ってる」
ミドリは少しだけ安心した。
だが翌日、学校の掲示板に新しい項目が追加された。
《恋愛適性指数》
ミドリの名前の横には、
《低》 とだけ書かれていた。
長吉の横には、
《高》 と書かれていた。
クラスがざわつく中、ミドリは静かに思った。
(もう、竹の背比べどころじゃない。
私たち、数字の檻の中で比べられてるんだ)
その瞬間、校内放送が流れた。
《来月から“比較疲れ対策室”を設置します》
ミドリは空を見上げた。
晴れているのに、どこか息苦しかった。
