こっちの日本昔ばなし #5 一寸法師
鬼ヶ島には、「労務課」という地味な部署があった。
ここでは、鬼たちの労働環境を改善するための地道な仕事が行われている。
新人職員のオニ山は、初日に課長から説明を受けた。
「最近、人間界から“鬼退治”が増えている。
労働中の鬼が襲われるケースが後を絶たない。
安全対策を強化しなさい」
オニ山はうなずいた。
「了解しました。労働災害は防がないといけませんね」
まず、現場の鬼たちに聞き込みをした。
一匹目の鬼は言った。
「畑を耕していただけなのに、
突然、小さな人間が針で刺してきたんだ。
あれは労災だろう?」
オニ山はメモに書いた。
『被害:突発的刺傷』
二匹目の鬼は言った。
「船で荷物を運んでいたら、
小さな人間が椀で追いかけてきたんだよ。
あんなの想定外だ」
オニ山は書いた。
『危険源:小型侵入者』
三匹目の鬼は言った。
「そもそも、我々は誰も襲っていない。
勝手に“鬼は悪い”と決めつけられているだけだ」
オニ山は書いた。
『原因:イメージ被害』
調査を終えて課長に報告すると、課長は静かに言った。
「つまり――
鬼が襲われる理由は、ほとんど誤解と偏見というわけだな」
オニ山は首をかしげた。
「では、どう対策を?」
課長は書類にハンコを押しながら答えた。
「簡単だ。
“鬼は働いています”という札を首から下げる」
オニ山は目を丸くした。
「札で……ですか?」
課長は淡々と答えた。
「そうだ。
人間は“働いている者”には手を出しにくい。
物語の中でも、労働者は襲われにくいからな」
翌日、鬼たちは首から札を下げて働き始めた。
『作業中につき襲わないでください』
しかし、その日の夕方、
一匹の鬼が慌てて労務課に駆け込んできた。
「大変だ!
札を見た小さな人間が“これは弱点だ”と言って奪っていった!」
オニ山はため息をついた。
「……札は逆効果でしたか」
課長は肩をすくめた。
「物語の登場人物は、
都合よく解釈するものだからな」
その日の夜、鬼ヶ島の海辺で、
オニ山は静かに空を見上げた。
「悪者にされるのも、働くのも、楽じゃないな……」
波が寄せては返し、
その音はどこか“諦め”のように聞こえた。
