こっちの日本昔ばなし #19 泣いた赤鬼
山のふもとに、赤鬼株式会社という小さな会社があった。
社長はもちろん赤鬼。
温厚で、地域との共生を目指す“ホワイト企業”を自称していた。
しかし現実は厳しい。
人間たちは「鬼=危険」という古いイメージを捨てず、
会社説明会に来る学生はゼロ、取引先も増えない。
そこで赤鬼は、広報室に勤める青鬼課長に相談した。
「どうすれば、人間たちにうちの会社を好きになってもらえるだろう」
青鬼は少し考え、静かに答えた。
「社長。
人間が“鬼は怖い”と思っている限り、こちらから歩み寄るしかありません」
翌週、奇妙なニュースが流れた。
“青鬼、暴走。人間の村で大暴れ”
だが実際には、青鬼が人間に怪我をさせないよう細心の注意を払いながら、 “ほどよく怖い”演出をしただけだった。
そしてその翌日、赤鬼が村に現れ、青鬼を追い払うふりをした。
村人たちは感動した。
「赤鬼さんは優しい」
「あの青鬼を追い払ってくれた」
赤鬼株式会社には問い合わせが殺到し、企業イメージは急上昇した。
数日後、広報室の机に一通のメモが残されているのが見つかった。
“社長へ 私はしばらく姿を消します。 私がいる限り、赤鬼株式会社の『優しい鬼』というブランドは揺らぐでしょう。 どうか、これからは人間と良い関係を築いてください。 青鬼”
赤鬼は静かに涙をこぼした。
だがその涙は、広報的には非常に価値があった。
翌日のニュースにはこう書かれた。
“赤鬼社長、涙の会見。青鬼との決別を語る”
企業イメージはさらに上昇し、株価も上がった。
ただ一つだけ、誰も知らない事実がある。
赤鬼株式会社はリモートワークが推奨されており、
今も毎晩、部長となった青鬼が山の奥からひっそりとログインしていることを。
