こっちの日本昔ばなし #6 かぐや姫
月には、
「資源管理局」という静かな役所があった。
ここでは、地球へ送り出した“資源”の回収状況を監視している。
ある日、若い職員のツキ田が課長に呼ばれた。
「地球に送った“試験体K”の回収期限が近い。
状況を確認してきなさい」
ツキ田はうなずいた。
「了解しました。地球での経過観察ですね」
ツキ田は地球の映像記録を調べた。
試験体K――地球では“かぐや姫”と呼ばれているらしい。
竹から発見され、
人間に育てられ、
求婚者が群がり、
やがて地球の王まで関心を示した。
ツキ田はメモに書いた。
『地球人:外見に弱い』
さらに記録を読み進めると、
かぐや姫は地球での生活に疲れ、
月への帰還を望んでいるようだった。
ツキ田は書いた。
『試験体:地球環境に適応せず』
報告を受けた課長は静かに言った。
「では予定通り、回収しよう。
地球人には“迎え”だと思わせておけばいい」
ツキ田は首をかしげた。
「……本当の目的は伝えないのですか?」
課長は淡々と答えた。
「地球人は物語を好む。
“月へ帰る姫”のほうが受け入れやすいだろう」
数日後、月からの使者が地球へ降りた。
かぐや姫は静かに連れ戻された。
地球人は嘆き、
「月へ帰った姫の伝説」として語り継いだ。
ツキ田は回収報告書に記した。
『地球側の解釈:物語化に成功』
課長は満足げにうなずいた。
「よし。
地球人は事実より物語を信じる。
管理がしやすくて助かる」
ツキ田は月の窓から地球を見下ろしながらつぶやいた。
「……物語にされる側は、たまったものじゃないですね」
地球は静かに光り、
その光はどこか“誤解”のように見えた。
