こっちの日本昔ばなし #15 花咲か爺さん
昔、村に“花を咲かせる”ことで有名な老人がいた。
枯れ木に灰をまくと、たちまち花が咲く。
村人は喜び、老人も誇らしげだった。
しかし、ある日、役所から通知が届いた。
《あなたの“花咲かせ行為”は無許可の自然改変に該当します。
監査局までお越しください》
老人は驚いたが、仕方なく出向いた。
監査局では、白衣を着た職員たちが 真剣な顔で花の写真を分析していた。
「あなた、灰をまいて花を咲かせたそうですね」
「ええ、まあ……昔からの習慣で」
「その“昔からやってたから問題ないという思い込み”が
一番危険なんです。」
老人は意味が分からなかった。
職員は淡々と説明を続けた。
「まず、花を咲かせる行為には“開花許可証”が必要です。
無許可で自然を変えると、生態系に影響が出ますので」
「わしはただ、村を喜ばせたくて……」
「気持ちはわかるが無許可は法律違反です」
老人は肩を落とした。
職員はさらに書類を差し出した。
「こちら、“開花理由説明書”です。
なぜ灰をまいたのか、
なぜ花が咲いたと思うのか、
合理的な説明を記入してください」
「そんなもの、わしにも分からん」
「分からないのに実行したのですか。
無自覚な犯罪はいちばんたちが悪いです」
老人は震えた。
職員は続けた。
「なお、あなたが咲かせた花はすべて没収し、
安全な場所で保管します。
村人への配布は違法です」
「花まで……?」
「はい。社会混乱を招きますので」
老人は帰り道、枯れ木を見つめた。
灰をまけば、きっとまた花が咲く。
だが、それをすれば再び監査が来る。
翌日、村人が訪ねてきた。
「じいさん、また花を咲かせてくれよ」
老人は首を振った。
「もうできん。法律違反らしい」
村人はがっかりしたが、
その背後から監査局の職員が現れた。
「村人の“花咲かせ依頼”は違法です。
あなたも注意対象になります」
村人は青ざめた。
老人は静かに言った。
「花は咲かせるより、
咲かせないほうが安全らしい」
風が吹き、枯れ木の枝が揺れた。
そこには、咲くはずだった花の気配だけが残っていた。
