銀河連合株式会社 #24 契約書は、どこにもない
銀河連合本部に入社して半年。
クル=ルは、ずっと気になっていたことを口にした。
「ぼく……まだ労働契約書をもらってないんですが……」
触手族ゼル=マルが触手をしおらせた。
「お前……ついに聞いちまったか……」
光生命体ルミナは光を弱めた。
「ここでは“契約書がない”のが普通なのよ」
タナカは静かに言った。
「僕も入社してから先輩に聞いたが、まだ見たことがありませんとのこと」
クル=ルは三つの目を丸くした。
「そんな……じゃあぼくたち、何を根拠に働いてるんですか……?」
そこへ無表情ロボットK-08が現れた。
「クル=ルさん、契約書について質問があったと聞きました」
クル=ルは勇気を出して言った。
「はい……労働契約書をいただけていないので……」
K-08は淡々と告げた。
「契約書は“発行されていません”。
皆さんは“働く意思がある”と判断されて採用されています」
ゼル=マルが触手を震わせた。
「出たよ……“意思があるから働ける”理論……」
ルミナは光を弱めた。
「意思なんて……聞かれてないのに……」
タナカは遠い目をした。
「ここでは、働き始めた時点で“契約したことになる”んです」
クル=ルは三つの目を伏せた。
「でも……契約内容が分からないと……」
K-08は満足げに光った。
「安心してください。
契約内容は“会社が必要に応じて決定”します。
皆さんはそれに従うだけで問題ありません」
クル=ルは震えた。
「じゃあ……ぼくたちの権利は……?」
「権利は“契約書が存在する場合”に発生します。
契約書がないため、権利は発生しません」
ゼル=マルは触手をしおらせた。
「つまり……義務だけあるってことだ……」
ルミナは光を弱めた。
「権利はないのに、義務は無限に増えるのよね……」
その瞬間、クル=ルの端末に通知が届いた。
《新規タスク:契約書がないことに関する問い合わせ対応
期限:今日中
※契約書は存在しないため、回答は“適切にごまかす”こと》
クル=ルは三つの目を丸くした。
「ぼく……契約書がないことを聞いただけなのに……!」
タナカは静かに言った。
「ここでは、“疑問を持つと仕事が増える”んです」
休憩スペースの照明がふっと揺れた。
その日の勤務表には――
クル=ルの“契約書関連タスク”が自動的に追加されていた。
