「君に幸あれ」は、次の誰かへ――映画『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』
昨日、仕事帰りに観た。
『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』は、映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』の続編であり、完結編。特攻隊員・彰との別れから7年。福原遥さん演じる百合は、彰の夢でもあった高校教師になっていた。そんな百合の前に現れるのが、彰の面影を持つ青年・涼。そして、百合は年老いた千代とも再会する。過去と現在をつなぎながら、その後の百合と千代の人生が描かれていく。
出勤するときは、手拭き用と汗拭き用でハンカチを2枚持っている。昨日は、それにもう1枚追加した。泣く用のハンカチ。
3枚持ってきた。
大正解だった。
最初の1時間くらい、ほぼ泣きっぱなしだった。ハンカチ3枚、需要予測、大当たりじゃねえか。
※以下、かなりネタバレがあります。
福原遥さんの百合が、前作から7年経った百合として自然にそこにいたのがよかった。前作から地続きで観られたことが、この映画にすっと入れた大きな理由だった。
百合が戦争について特別授業をする。最初、生徒たちはどこか他人事で、少しちゃかしている。でも、特攻隊員が残した手紙をクラスのみんなで順番に朗読していくうちに、少しずつ教室の空気が変わっていく。
その変化の見せ方がすごく上手かった。
戦争について一方的に説明するのではなく、当時を生きた人たちの言葉を、生徒自身の声で読ませる。そして最後に百合がまとめる。
7年前、戦争の中で彰たちと出会った百合が、今度は教師として、それを次の世代へ伝えている。ここにも、この映画の「受け取ったものを次の誰かへ渡していく」というものがあったように思う。
最初にグッときたのは、未来の千代ちゃん、倍賞千恵子さんが出てきたところだった。そして若い頃の千代ちゃんを演じる出口夏希さん。
お見合いのときの千代ちゃんの表情が忘れられない。好きな人である石丸さんを心に残したまま、別の人と結婚する。そこで見せた、すべてを諦めたような表情。すごく静かな出口夏希。
出口夏希さんのパブリックイメージは、明るくて元気で、華やかな人という感じだと思う。でも、この映画の千代ちゃんは静かだった。感情を大きく表に出すわけではない。特にあのお見合いの場面の、諦めたような目が印象に残った。
静かな出口夏希、すごく綺麗だった。
石丸さんは特攻する前に、千代ちゃんに手紙を残していた。
「君に幸あれ」
たった一言。
そして、千代ちゃんは、好きな人である石丸さんを心に残したまま、別の人と結婚する。旦那さんも、千代ちゃんの心に別の人がいることを分かっていた。
その旦那さんもまた、戦争で深い傷を負っていた。誰かと一緒にいることで、自分の中にあるものを抑えられるのではないか。そんな思いがあって、「僕は千代さんを利用していました」と謝る。でも、そこで千代ちゃんは、この人をこれから私が守る、と決める。
ここもすごく良かった。
好きな人と結ばれなかった女性の話、だけでは終わらない。そこから先の人生を、自分で引き受けて生きていく。その静かな強さが千代ちゃんにはあった。
一方、現代の話では、涼を演じる細田佳央太さんがものすごくいい。
生徒の女の子が書いていたノートを、本人が感情的になってビリビリに破いてしまう場面がある。見ながら、これはあとでセロハンテープでつなぐんだろうな、とは思った。
実際、百合と涼の二人で修復することになる。そこで涼が、「本人は読まれることに抵抗があるかもしれないから、なるべく中身を見ないように直しましょう」というようなことを言う。
こいつ、本当にいいやつだなと思った。百合も彼のことを「あったかい」と表現していたけれど、その言葉がすごくよく分かる。
さらに涼が言った「恩返しできないなら、恩送りをすればいい」という言葉も残った。
恩返しは、その人に恩を返したらそこで終わる。でも恩送りなら、受け取ったものを別の誰かに渡していける。そうやって人から人へ、どんどんつながっていく。
この映画を観終わって思ったのは、この「恩送り」が作品全体にも流れていたんじゃないか、ということだった。
ラスト近く。晩年の千代ちゃんが百合を促す。そして、その後、千代ちゃんは亡くなったように描かれる。
そのとき、かつて好きだった人からもらった「君に幸あれ」と書かれた手紙が床に落ちる。もちろん、手紙そのものは千代ちゃんのものだ。
でも私には、あの「君に幸あれ」という言葉を、千代ちゃんが百合へ渡したように見えた。それは、まさに恩送りのように思えた。
「君に幸あれ」
その言葉が、人から人へ送られていくように感じた。
そして終盤になるにつれて、倍賞千恵子さんが出口夏希さんに見えてきた。
もちろん顔が似ているという話ではなくて
「ああ、この人はあの千代ちゃんなんだ」
と、いつの間にか自然につながっていた。
千代ちゃんが百合の正体に最初から気づいていたんじゃないか、と私は途中から思っていた。最後にそれがちゃんと明かされる。
そこでまた泣いた。
そして百合の呼び方が、「千代さん」から「千代ちゃん」に変わる。
ここでも泣かされた。
何十年も経った現在の千代さんと、百合が知っていた若い千代ちゃんが、その一言でつながったように感じた。
この映画、客席を見ると若い女性二人組やカップルが多かった。そのカップルの隣で、おじさんは号泣していました。
ただ、面白かったのが、泣くポイントが違う。
隣のカップルから泣いている声が聞こえてきたのは、百合と涼の恋愛、告白の場面だった。
おじさん、そこはほぼ無反応。
逆に私がダメだったのは、晩年の千代ちゃんだったり、生徒の子が卒業式で百合にお礼を言うところだったりする。
同じ映画を観ているのに、泣く場所が違う。
若いカップルが恋に泣いている横で、おじさんは人生と卒業式に泣いていた。
年齢なのか、経験なのか。それとも単なる個人差なのか。でも、こういう違いも映画の面白さなのかもしれない。
生徒の女の子の名前がサラちゃんだったのも最高でした。
サラ
とてもいい名前だと思う。
そしてこのサラちゃん、最後にやってくれます。百合から受け取った想いに、自分の人生で返事をした。ここは書かない。エンドロールが始まっても席を立たないでください。トイレに行きたくても、絶対に最後まで観て。
すごく好きな映画だったけれど、二つだけツッコミたいところもある。
ひとつは、途中で流れる福山雅治さんの挿入歌。(福山雅治さんは無罪。これは私の言いがかり)
曲はよい。ただ、それまで芝居と物語だけで十分に感情を動かされていたので、曲が入った瞬間に少しだけ、「はい、ここ泣くとこよー」と言われた感じがしてしまった。
そこで一瞬、冷めた。予告編を観たときから少し嫌だなぁと思っていたけれど、本編を観ても同じだった。
もうひとつ。
終盤、公園で百合と涼が二人きりになる。綺麗な花火が見える。
いやいやいや。
あんなに花火が綺麗に見える公園に、人っ子一人いないわけがない。二人きりにしたいのは分かる。でも、そこはさすがに誰かいるだろう。
そんなツッコミはありつつも、かなり好きな映画だった(これだけ泣いたんだから、そりゃそうだ)。
恋愛の話ではある。
でも、私がいちばん心を動かされたのは恋愛そのものではなかった気がする。
「君に幸あれ」という言葉。
「恩送り」という考え方。
誰かからもらったものを、その人には返せなくても、次の誰かへ渡していく。人から人へ。時間を越えて。ぐるぐる回っていく。
彰から受け取った想いを、百合が特別授業で生徒へ渡す。石丸さんから千代ちゃん、千代ちゃんから百合への『君に幸あれ』。
私は、そこにいちばん泣いたのだと思う。
ハンカチを3枚持っていった自分を褒めたい。昨日はナイスな需給でしたわ。
【追記】
この記事、noteから「先週特にスキを集めた #映画の記事です !」でコングラもらいました。読んでくださった方、スキをくれた方、ありがとうございます。
出口夏希、綺麗でした。


