【ショートショート】"忌み子"と呼ばれた金太郎
金太郎は『忌み子』だった。
赤龍と山姥の間に生まれたと言われるが、実は山姥は妖怪ではなく一人の女性だった。
龍は神様や妖怪として信仰の対象となっているとはいえ、『幻獣』と言われる動物である。
動物と人間の間に生まれる『忌み子』は人間の世で産み育てることはできない存在。
龍の子を宿した女性は人里離れた足柄山の山奥に住み、人知れず一人の男の子を産んだ。
生まれた子は金太郎と名付けられた。
石臼をかついでハイハイするほどの怪力赤ちゃんだったが、母親と一緒にいるだけで他との交流がなかったため、成長するにつれて内気な子供に育っていった。
「優しく思いやりがあって、頭も良くて力持ち。それなのにこのままでは宝の持ち腐れになってしまう」
母は金太郎の行く末を憂えていた。
一方、金太郎には一つの思いがあった。
『お母さんを楽に暮らさせてあげたい』
女手一つで育ててくれる母に、金太郎は感謝を忘れることはなかった。
※
家の中で遊んでいたある日、金太郎の耳に何かの声が聞こえた。
『…もう限界だ……助けてくれ』
周りには誰もいない。
不思議に思った金太郎は外へ出て耳を傾けた。
『…誰か頼む……倒してくれ』
声の方へ行ってみると、そこには一本の巨大な老木があった。今にも息絶えそうである。
「倒して欲しいのか?」
金太郎がささやくと、木はまるでうなずくように小枝を揺らす。
『このまま倒れては、周りを薙ぎ倒してしまう。……頼む。まだ私の意識があるうちに』
金太郎はうなずいた。
この木は他の草木や動物に迷惑がかからないように息絶えようとしているんだ。
「よし、待ってろ」
太い幹を縄でくくり、懸命に持ち上げようとした。
しかし、びくともしない。
何度試しても同じだった。
「あ!忌み子の金太郎」
「何をやっている!僕たちの大切な木に」
動物たちが集まってきた。
金太郎を遠巻きにして眉をひそめている。
「この木が倒して欲しいって俺に言ったんだ」
金太郎が言うと、動物たちは互いに目を合わせた。
「それは僕たちもわかっている。だから何回も倒そうとしたんだ。でもこんな大きな木、僕たちには無理だよ」
木の幹を見ると、いろいろな手形や爪の跡があった。
みんな一生懸命倒そうとしていたんだ。
「お前なんかに倒せるものか!人間と龍の間の子になんて」
「忌み子は、生まれてきた『意味のない子』ってことなんじゃないの?」
動物たちはケタケタ笑った。
「俺なら倒せる!」
今まで母親以外としゃべったことがなかった金太郎だが、父と母を馬鹿にされたようで悔しかった。
「へー、証明してみせろよ」
次々と飛びかかってくる動物たち。
しかし金太郎はそれをあっという間にかわし、なるべく痛くないように注意を払いながら動物たちをバッタバッタと倒していった。
「つ……強い!」
驚く動物たちの影から、巨体が近づいてくる。
「ワシが相手してやろう」
森一番の力持ちの熊だった。
さすがの金太郎も少し苦戦をした。
しかし時が経つにつれて、歴然とした違いが表れた。
「そ…そんなバカな!」
熊が宙を舞う。
激戦だったにもかかわらず、熊には傷ひとつなかった。
痛みを与えず投げ飛ばす金太郎に、熊は圧倒的な力の差を感じた。
「あんたなら本当に倒せるかもしれない」
熊は金太郎の前に平伏した。
「顔を上げなよ。熊さん」
金太郎は笑顔で熊に手を差し出す。
その日金太郎と森の仲間たちは、その木を囲んで一緒に遊んだ。
「なぁ、金太郎。木を倒したあと、木をどうするつもりなんだい?」
森の動物たちが、楽しそうに金太郎に話しかける。
「それはもう決まっているんだ」
金太郎は笑顔で返し、老木を見上げた。
そこにはもう、金太郎を『忌み子』と呼ぶものはなかった。
なかなか帰って来ない金太郎を心配して探しに来た母は、その様子を草場の影で見つめていた。
『お父さん、あなたの息子は立派に成長しましたよ』
※
次の日、金太郎は老木の下に立った。
森の動物たちが固唾を飲んで様子を見守る。
金太郎は大きく手を回して縄をギュッと握り、あらん限りの力で老木を持ち上げようとした。
しかし持ち上がらない。
「金太郎がんばれ!」
「木の願いを叶えてあげておくれ」
「お前ならできる!がんばれ」
森の仲間たちの声援がこだまする。
その時、心の中で声がした。
”まだ芽が出たばかりとは言え、『仁義礼智忠信孝悌』八つの徳をその身に宿したな……”
この声は……?
金太郎は力を振り絞りながら耳を傾けた。
”金太郎、お前はとうとう本当の力を手に入れたのだ。森の仲間たちとの交流を通じて”
頭の中に鳴り響くような声。
他の誰にも聞こえていないようだ。
”金太郎、力を貸すぞ”
金太郎の皮膚はみるみる赤みを増し、大地が揺れた。
「なんだなんだ?」
驚く動物たち。
金太郎は自分の中から、とてつもない力が湧き出てくるのを感じた。
これならいける!
奥底からこみ上げる力。
その力が手から、足から、全身からほとばしる。
うおぉぉぉぉぉ!!!
金太郎の雄叫びともに、何かが空に舞い上がった。
「赤い……龍……」
木は根っこごと抜けた。
金太郎はその木を崖に渡して橋にした。
『これで森の仲間とずっと一緒に暮らせる。ありがとう……』
かすかな声と共に、金太郎の脳裏に老木の記憶が流れ込んできた。
鳥がさえずり、巣を作り。
それを温かく包み込んで。
夏の暑さに疲労した動物たちを癒し。
みんなが歌うときは、共に歌い。
みんなが悲しむときは、共に悲しむ。
何百年も続いてきた命の繋がり。
そして……。
崖の先に木の実を取りに行けず、困っている動物たちの姿。
老木の記憶はそこで途絶えた。
そうか。だから……。
金太郎は優しく老木に手を添えた。
※
この時のことを偶然見ていたお殿様は、金太郎をとても気に入り、役人として登用した。
その後、金太郎は縦横無尽に活躍した。
金太郎と母親はそれ以降、何の不自由もなく幸せに暮らしたのだった。
『忌み子』と言われた金太郎。
『意味のない子』とも言われた金太郎。
その金太郎は『存在の意味が大きい人物』として敬愛の念を込め、『意味子』と呼ばれるようになったという。
終
コッシーさんのこちらの企画、メッチャ楽しそうって思って参加させて頂きました!
ありがとうございます😊
金太郎の大枠のストーリーを外さず、自己解釈&創作してみました。
あ!
鉞がなかった!(笑)
とりあえずどこかに持っている……的な設定で😅
よろしくお願い致します🙇
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