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あなただけの透明世界

あなたが伝えたいことは何ですか?
それをどんな人に伝えたいですか?

私は彼への想いを伝えようと絵を描きました。
一番得意な方法で。
一番伝えたい方法で。

でも、彼は視力を失ってしまいました。
もし私が、文章が上手なら読み聞かせることだってできたのに。
絵では伝わらないんです。
私の心は伝わらないんです。

途方に暮れて歩いていると、淡く霞む曼珠沙華が目先に触れて。
ふと顔を上げると、そこには輪郭がぼやけたお花屋さんがありました。

湿った紙に色を塗ったような扉。
引き付けられるように開ける私。

「いらっしゃいませ」

お店の人が白い花を持って出迎えます。
それは小さく可憐で、頬に落ちた涙のようでした。

「これは白露草しらつゆくさといいます。原世界へといざなう花です」

原世界……。

口を開いても、なぜか言葉が音になって出てきません。

気がつくと、私は白露草を持っていました。

鼻に届かない香り。
それなのに全身で感じる柔らかい芳香。

身体に付いたものがみるみるうちに剥がれていきます。
知識、技術、経験……そんなメッキが。

周りの景色も、表面の薄い膜が舞い散りました。
まるで紅葉が降り注ぐように。


これが私の原風景……。


そこには何もありませんでした。

何も見えない。
聞こえない。
感覚さえも透明な世界。

いえ。
感覚がないだけで、確かに何かがありました。
私の身体に映らない何かが。
私を優しく包み込む何かが。


彼と初めて会った日のときめき。
手を繋いで歩いた公園。
何気なく交わした会話。
そばにいる笑顔。

駆け巡る想いの数々は……
彼に伝えたい気持ちは……
彼が伝えてくる心は……

どれも色はありませんでした。
無色透明の温かい陽だまりでした。

勝手に色を付けていたのは自分自身。
気持ちだけが先走って、伝えたいことを押し付けて……。

頬を伝う白露の滴が、透明世界を溶かしていきました。
そして少しずつ、世界が色を思い出していきました。

景色がメッキを取り戻したとき、そこに花屋さんはありませんでした。


家に戻って、すぐ絵に向かいました。

どれだけ想いを詰め込んだって、伝わらないことがある。
自分の気持ちにのめり込んで、相手を見ていないときがある。

伝えたい人に伝わる想い。
それは、自分の気持ちだけでなく、相手のことを考えること。

それが一番大切だと教えてもらいました。

白露草に誘われた、私の中の原風景に。
すべてを捨てた奥底にある透明世界に。


凹凸を付けた私の絵。
彼の手を取り、一緒になぞって。

「これは噴水だね。いつも待ち合わせしていた」
「そうだよ。いつも待たされた噴水!」
「いつもじゃねーよぉ」
「いつもだったし!」

長い間沈んでいた彼に笑顔が戻りました。

私が描いた絵は彼には見えないかもしれません。
でも見えないことは、伝わらないこととイコールではないと思うんです。

表現すること。
それは伝えることです。
伝えたいことを伝わる形で伝えること。
それが大切だと思うんです。

伝えたい人に寄り添うこと。
心を抱きしめること。

絵であれ、文であれ、音楽であれ。
それができれば必ず伝わると思うんです。
そしてそれが、真にアートと呼べるものだと思うんです。

みんなに見せてください。
あなたの心の中にある、あなただけの原風景を。

きっと待っている人がいます。
あなただけの透明世界を。



こちらに参加させて頂きました。
今回も楽しく創作できました。ありがとうございます😊
そして灯火さんの作品を読んで考えたこと。
この創作を通して気づいたこと。
たくさんありました。
ありがとうございます!

ちなみに私は絵が苦手です笑


#灯火杯4th

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