見出し画像

【片想い文芸部】「一世一代のあくび」

あくびが怖くて告白ができない。

ただの逃げ口上だと思うだろう。
違うんだ。
俺は、極度の緊張状態になるとあくびが出てしまう。

これはその恐怖に毅然と立ち向かった俺、修弥しゅうやの記録である。

陽菜ひな
初恋だった。
小学校の時、一世一代の決心を胸に、
「大好きだ」
と、言おうと思った。
それなのに———

「だ……だ……ああぁぁぁ〜……あぁぃ……ひゅ〜ひだぁぁ」

あくびとともに必死に告げたその言葉は、ただバカにしてるようにしか聞こえなかったようで……

「なにそれ!ふざけてんの?」

始まる前に破局を迎えた。

しかし、それで初恋を諦められるわけがない。
中学の時も陽菜に再アタック!
二の轍は踏まない。
その時、俺は訓練に訓練を重ねて、あくびを押し殺す技術を習得していた。

「付き合ってください」

絶対言ってやる!

陽菜を呼び出す。
一世一代の決心(二度目)を胸に口を開く。

「つ……」

あくびのヤツがまた出てきた。
必死に押し殺す。

「つ……ウゥッ……」

嘔吐をこらえていると勘違いされ、保健室に連れて行かれた。

どうしてなんだ!俺の体ぁぁ!
なぜ、こういう時に限って……なぜ……なぜ!

そして今、高校生になった。
三度目の正直!
陽菜を呼び出す。

今までは無理に言おうと思ったから、だめだった。
一旦やり過ごしてからちゃんと言えばいい。
それに気づいた俺は、自信満々だった。

「修弥、用ってなに?」

よし、行くぞ!一世一代の決心(三度目)!

あくびが出る。
後ろを向いてやり過ごす。
そして、前を見た。
陽菜が眉をひそめている。

「ねぇ、今あくびしたでしょ?」

気づかれたぁぁぁ!

「そんなんじゃない。そんなんじゃないって」
「うそうそ。だって……」
陽菜が何か言おうとしていたのに、俺は焦って言葉をかぶせてしまった。それなのに……

「俺は陽菜が…………あぁぁぁ〜」

しまった!
思いっきりあくびが出てしまった!
もうどうでもいい。押し切れ〜〜!

「好きなんだ!」

場に流れる沈黙。

すると陽菜は、口に手をやり目をつむった。

「フヮァ〜……」

え?あくび?

「あははは。こんな気の抜けた告白、聞いたことないよ」

終わった。
小学校の時から破局していたが、今完全に終わった……。

「でも……私もあくびしたから人のこと言えないね。うつっちゃったよ」

陽菜は微笑んだ。

何も言えない俺。
その時、俺の頭には、陽菜の可愛いあくびが絶望の中に輝いていた。

「知ってる?仲が良ければ良いほど、あくびってうつりやすいんだって」

「えっ……」

陽菜はそばに来て、俺の右手をぎゅっと握った。



こちらに参加させて頂きました!
やっぱりお題で考えるのって楽しいです😆
よろしくお願いします!


#片想い文芸部

いいなと思ったら応援しよう!

乃井 万之介 よろしければ応援お願いします! いただいたチップは活動費に使わせていただきます!

この記事が参加している募集