母が逮捕された日、わたしは9歳だった
わたしが風俗嬢、AV女優から看護師になるまで
もちろんいくつもの理由がある。
なかでも、母の存在は大きく──避けて通れないものだった。
あれは私が9歳、小学4年生のときだった。
いつものように学校へ向かおうとすると、
母が玄関の扉を開けないよう私に注意する。
「ママ、なんで、学校遅れちゃうよ」
「あそこに停まってる車、あんな車見たことない。
今外に出たら警察が来るよ、ドアは開けちゃだめ」
母は部屋のカーテンの隙間から外を眺め、
駐車場に停まっている車をひどく警戒していた。
「あんたも見てごらん、あんな車見たことないでしょ」
母と一緒にカーテンの隙間からそっと外の様子を伺うが、
私にとってはいつもと同じ景色であった。
「わかんないよ、いつもと同じだよ」
「あんたにはわかんないんだね、
ママにはわかるんだよ。あれは絶対警察だ」
そんなやりとりを繰り返し、
時計の針は10時をさしていた。
「学校、まだ行っちゃだめ?」
母はまだ窓の外を警戒している様子だったが、
気が変わったのか「車で送る」と言い出した。
ようやく家から出られる、学校に行ける。そう思った。
そして母がやっとパジャマから着替え始めるのを見守った。
「ねえ、玄関の扉、ゆっくり開けて
扉の穴から外見て。人、いる?」
母にそう言われ、
玄関扉のドアスコープから外をのぞく。
「ママ、大丈夫だよ、誰もいないよ」
わたしはゆっくりと玄関の扉を開けた。
すると、少しだけ開いた扉の向こう側から
人が一斉にこちらへ向かってきた。
一瞬の出来事だった。
長袖のコートを着た男の人が
玄関扉をおさえて紙を取り出す。
「警察です、
今から部屋の中を見せてもらいます」
母が言っていた通り、
外には本当に警察がいた。
わたしは誰もいないと母に伝えて扉を開けたため、
本当に警察が来てしまったことで
母に怒られてしまうと思った。
玄関の扉を閉めようとしてみたが
強く押さえられたその扉は当然閉まらない。
どうしよう・・・
そう思っていると、
部屋の奥から、母の絶叫が聞こえた。
あの日から、私の人生は変わってしまったのかもしれない。
