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【エッセイ】ギャップあり過ぎ?

「俺、会社辞めるわ…」
 見知らぬ土地に赴任し、そろそろ仕事も生活も落ち着いただろうと、顔を見がてら次男の所へ行こう!ついでにあちこち観光も…。本人以外の家族で、ウハウハと盛り上がっていた矢先の電話だった。夫などは、次男の発した言葉の意味が吞み込めず、頭の上に?マークを五つは並べていただろう。

 さっきまで盛り上がっていた【次男・赴任先ツアー】のために、通常休暇の土日に有給休暇の二日間をくっつけ、四日間のロングバケーションを計画してしまった気の毒な長男が聞いた。
「マジで、辞めるの?」すると、ため息交じりに次男がこう答えた。
「余りにもギャップがあり過ぎて…」
 ギャップ?大体の想像は着いたが、一同が頭の中で考えを巡らせていると、彼が話し始めた。

 話は、内定者説明会まで遡る。
 内定者向け説明会で、社内キャリアアップについての説明があった。キャリアアップは、本人のやる気や頑張り次第で上がっていけるプログラム。最短では、入社半年でという者もいる。会社としては、入社後三年目にはキャリアアップしていることを期待しているといった内容だ。

 しかし、現実はこうだ。配属先上司の話では、人手不足のためキャリアアップどころではなく、三年では無理かもしれないと。実際に、その上司がキャリアアップできたのも、入社五年目だったというから驚きだ。これでは、彼の人生設計もズレズレである。入社三年でキャリアアップし、次のステップへと考えていたのに、予定より二年プラスとなれば迷うのも当然である。

 本人は騙された感が満載で会社を信頼できないというのだから、転職を考えるのもわからないでもない。しかも彼が本来やりたい業務がキャリアアップした先にあるのだから、なおさらだ。
 この他にも辞めたい理由はあると言っていたが、この理由一つ聞いただけでも仕方ないような気もする。

 しかしである。あの苦しかった就活を思い出してほしい。
大学三年の秋頃から始めた就活。幾度となく落とされた書類選考。人間として否定されているのではないかとまで追い込まれた面接。その中で、やっと勝ち取った就職先だったではないか。喉元過ぎればナンチャラではないが、簡単に転職へと走り出そうとする彼に、もう少し考えてみては?と引き留めてみるが、今はそんな時代ではないとキッパリ言われてしまった。諦めの悪い私は、長男や友人の意見も聞くべきだと彼に促してみるが、結果は満場一致で転職推しとなった。

 これが時代の風潮なのだろうか。ここまで来たら、もう少し悪あがきを…と思ったが、ストレスで眠れなくなった頃の夫を思い出した。今でこそ、眠れない日々とはおさらばできたが、あの頃のことを思うと胸が締め付けられる。本来仕事とは、元気に生きていくためにするものなのだが、実際はそうではないことの方が多いのかもしれない。

 令和三年に厚生労働省が実施した労働安全衛生調査(実態調査)では、仕事や職業生活に関する強い不安・悩み・ストレスを感じる労働者の割合が53.3%、その内容をみてみると『仕事の量』が43.2%と最も多く、次いで『仕事の失敗や責任の発生等』が33.7%、『仕事の質』が33.6%、『対人関係』(セクハラ・ パワハラを含 む)が25.7%となっている。この調査結果を考えると、先程まで転職を「悪」のように書いていたことを思い直す。

 仕事をするということは、精神的にも肉体的にも健全であることが大前提だが、もし今の仕事が健全に行えないのであれば、その人にとって転職は「善」となる。

 では、どうすればよいのか。

 私たちは、日々仕事の理想と現実に向き合い、健全であるためにどこで折り合いをつけるか、超えてはいけない一線はどこにあるのかを怠ることなく自問自答しなければならない。

 なぜなら、健全であるからこそ仕事が継続できるからだ。

 そう思うと、今さらだが他にも辞めたい理由があると言った彼の言葉が気になる。彼の中にもこういった悩みがあるのかもしれない。


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